刺客
ホームルーム前の時間、クラスは騒然としていた。
このクラスにまた転校生が来るらしい。
マリナのアイディアでは無いが、やはり情報をいち早く仕入れてくれる仲間がいれば頼もしいと思った。
そしてもちろん俺とキノコには転校生について心当たりがあった。つい昨日のヤマトの言葉が脳裏にちらつく。
「ユザ」
隣の席にいるキノコが表情を硬くしている。
「まさか、な」
教室の前の扉が開いて敬子が入ってくる。クラスメイトたちは各々の席に戻った。彼女の後ろには二人の女子がついてきていた。その二人を俺は知っていた。昨今テレビのバラエティーを賑わせている、お笑いコンビだ。
「はい皆。今日は二つお知らせがあります」
敬子は教壇に立つと教室を眺め回した。
「一つ目は、お笑いが勉学をする高校生に及ぼす影響について、調査が終わりました。なので、今日からは目一杯笑っていいわよ。もちろん、お笑い活動も解禁してOKです」
敬子が俺とキノコに目配せする。
「それから、二つ目なんだけど。このクラスに転校生が二人来ることになりました」
敬子は二人を振り返る。
「二人ともこっちに来て」
「「はい」」
二人を見たクラスメイトが驚きの声を上げていた。
「ま、マジ?」
「え、あれ? 私、テレビで見たことある」
「なんでここにいるの?」
そんな声の中、二人は教卓の隣に移動した。
「黒板に名前を書いてくれる」
「はい」
「は~い」
黒板に白いチョークで名前を書いた。
オトハ
メイ。
どちらも芸名のはずだ。
「二人とも芸人さんです。だけど、本名は?」
敬子の疑問は当然だった。ポニーテイルのオトハが口をにやりとさせる。こちらを向いた。
「白川ヒバリ。だけどオトハでいいわ」
勝ち気そうな声だった。
「私は、菅井アリサ。でも、メイで芸人やってるし、メイでいいよー」
こっちの声は間延びしている。髪はパーマがかかっており身長は低い。
敬子が教室を眺め回した。
「そうなんです」
教卓に両手を置く。
「皆もよく知ってると思うけど、このたびプロの芸人の二人が、私たちのクラスメイトになります。皆、よろしくしてあげてね」
「あ、先生」
オトハが右手を上げた。
「はい、何?」
「自己紹介も含めてネタを作ってきたから、披露させてもらうわ」
「お願いします~」
メイが両目をうれしそうに目を細める。
「わ、分かりました。それじゃあお願いします」
敬子は窓際に移動する。オトハとメイは顔を見合わせて頷いた。
「それじゃあ、早速始めるか」
メイが両手を開いた。




