鳥肌
またしても俺とキノコはお笑いの練習の日々が始まった。
放課後、いつもの公園で台本を片手に持っている。
「スベ」
俺は頭をなでる。
「スベ」
キノコは左手で右手を撫でる。
「スベスベ」
「この床、スベスベですよ」
「あ、キノコ。今のところ、右足で地面を強く踏んだ方がいいな。口調も強めが良い」
「強く、ですか?」
「その方が面白いと思う」
「本当ですか?」
はにかんだ。
「ああ、一回やってみてくれ」
「分かりました」
俺たちはまた繰り返す。
大会の日まではまだ余裕があった。ネタを覚えるには充分の期間。
不安もある。リスクもある。
俺たちが練習をしていると、激しい足音が近づいてきた。
「ん?」
「なんでしょう?」
足音の方角に顔を向けると、ヤマトだった。私服姿である。黒のスーツ姿の三人に追いかけられている。逃げているのだろうか。彼は俺たちに気づくと、何を思ったのか公園に入ってきた。
「ユザ、助けてくれ」
「ヤマト、お前何をしているんだ?」
俺は両腕を組んだ。
「姉さんに監禁されてるんだ。お前達に下手なことをするなとな」
ヤマトは俺たちの背後に回る。黒のスーツの男が迫ってきた。
「坊ちゃん、いけませんね。早く家に帰らないと、私たちが叱られてしまいます」
「サブ! お前、俺のお付きのくせに、何で俺の言うことをきかないんだ」
「カグヤ様の命令ですから」
三人はヤマトを包囲し、やがて捕まえた。彼はじたばたしながら口から泡を飛ばす。
「ユザ、一つ言っておく」
「な、なんだ?」
「姉さんは、プロを雇ったぞ」
「プロ?」
キノコが人差し指を顎につけて首をかしげた。
「あいつらが、来る」
「坊ちゃん、行きますよ」
黒のスーツの三人がヤマトを引きずって歩いて行く。
「わ、分かったから。引きずるな。引きずるなって」
ヤマトたちは去って行った。
俺とキノコは顔を見合わせる。
「あいつらって、誰だ?」
「さあ? ただ」
「ただ?」
キノコが右腕の袖をめくって見せた。鳥肌がびっしりだった。




