決意
カグヤの顔に表情がなくなる。真っ青だった。
「はめおったな?」
昼休みに生徒会室で何が起こったのか。説明しよう。しかし今から言うのはマリナの書いたシナリオである。
レンとマリナとキノコの三人が生徒会へ入りたいと願い出たのだ。カグヤにとって、敵が寝返ることはうれしいことだった。そして彼女はこう思った。ターゲットをキノコから俺に変更すれば一石二鳥である。俺を学校から去らせることが出来たのなら、弟のプライドを守った上に、弟とキノコとの恋を成就させることもできるかもしれない。しかし三人はスパイだった。
お笑い活動を禁止され、仲間に裏切られた俺は狂っていく。本当はもっと長い期間を狂った自分を演じるはずであった。しかし作戦が今日中に完了してせいで、俺は無様な自分を演じる必要が無くなった。カグヤは今日の今日でお笑いのネタを書いたからだ。どうして書いたのか?
キノコがカグヤに申し出たのだ。ヤマトとお笑いをやりたいと。ヤマトにお笑いの才能は無い。そんな弟を思い、カグヤはルーズリーフにペンを走らせた。机の中のそれをレンとマリナが見つけた。そういうことだ。
LINEで連絡を受けた俺は、ここに歩いてきただけだった。
俺は繰り返す。
「カグヤさん、退学して責任を取ってくれますか?」
カグヤが唇をかむ。
「何が望みじゃ」
「まず」
俺は人差し指を顔の前に立てる。
「質問に答えてください」
「質問?」
「良いですか?」
「あぁ」
カグヤ表情を歪める。
「カグヤさんは、キノコの父親に花井家の力で働きかけ、転勤を決定させましたね?」
「……そんなことは」
俺はルーズリーフを掲げる。
「させましたね」
「余にも理由があるのじゃ」
「理由とは」
キノコが喉をふるわせた。
「理由とは何ですか?」
カグヤは表情にあきらめを浮かべた。ゆっくりと窓際へと歩く。
「実はヤマトは死んでいない」
「知っています」
「そうか」
カグヤは自嘲したように笑った。
「ヤマトは花井家の次期頭首じゃ。厳しい試練がこれから待ち受けている。だから、せめて高校だけは楽しく過ごして欲しかったのじゃ」
「そのために、俺とキノコが邪魔だから。キノコを転校させて関係を破壊しようと思ったんですね」
「その通りじゃ」
一目惚れの相手が幼なじみの俺と付き合っていて、さらに同じ高校いれば愉快な気持ちになれるわけない。
カグヤは振り返る。
「余は、悪い人間よのう」
「カグヤさん。キノコの父親の転勤を、取りやめにしてくれますね?」
「それはできん」
カグヤは唇をかむ。
「それじゃあ、このルーズリーフの件を学校中にばらしますよ」
「いいじゃろう」
彼女は目を細める。
「余は責任を取って、転校するとしようかのう」
「そこまでして?」
マリナが眉を八の字にした。
「カグヤさん」
俺は言った。
「なんじゃ?」
「俺とキノコと勝負をしませんか? もしカグヤさんが勝てば、俺は転校します」
「お笑いか?」
「はい」
「……やろう」
カグヤの顔に決意が満ちる。
「そなたが勝てば、キノコの父の件を帳消しにしてやろう」
「大会の日は6月24日。場所は朝塚浜プラザです。エントリーをお忘れ無く」
「よい」
「それじゃあ、俺たちはこれで失礼します」
俺は他の三人に目配せした。三人が頷く。俺たちは生徒会室を後にした。




