転校初日
一日ひとつずつ投稿していきます。
休み時間になるとキノコと俺は話をした。お笑いの話が中心だった。以前に俺と何度か舞台を共演したことがあるらしい。しかし俺は本当に彼女のことを覚えていなく、そのことについては謝罪した。
そんなことはどうでも良い、とは言わないが二の次だろう。
キノコは転校初日なのだ。この学校、この教室でしっかりとやっていくことが大切なことである。何が言いたいのか、ズバッと言うと友達が必要。だけどそんなデリケートなことは口に出さないし、それにキノコなら何とかなりそうだった。
昼休みになると、俺はいつものように弁当箱を持って窓ぎわのレンの席へと行った。彼は顔の形を崩さず奇妙に笑いながら俺をからかった。
「お前、いきなりなつかれたな」
「ひどいもんさ」
レンはコンビニのおにぎりをむいて食べる。俺は母親が作ってくれた弁当箱を机に広げる。レンの前の席の椅子を借りた。
「いま、なんて言いましたか」
振り向くと、キノコが両手を背中に組んで歩いてくる。
「猫の話だ」
「猫がどこにいるんですか?」
瞬間、レンが眼光を強めた。キノコをにらみつける。
「テメー!」
「ひっ」
キノコがひるむ。しかし彼はすぐに表情をゆるめた。
「テメーも一緒に飯食うか?」
「い、いいんでしょうか?」
「早く来いよ」
俺は手招きした。キノコは背中に隠していた弁当袋を見せ、レンの机に置いた。
「ユザのお友達ですか?」
いきなり呼び捨てだった。レンの顔を上目遣いで見る。
「ああ」
「まあそんなところだ」
「友達の友達は友達です」
キノコがレンに右手を差し出した。握手を求めているようだ。
「俺とお前は友達なのか?」
俺が水を向けた。
「え、違うんですか?」
キノコが右手を引っ込める。
「違うだろ」
「何度も会ったことがあるじゃないですか」
「話すのは今日が初めてだ」
「それはそうですけど」
キノコは下を向いて少し考え、顔を上げた。
「私、友達いません。ひとりぼっちです」
しょんぼりとする。迷子の飼い犬のようなつぶらな瞳だった。
俺とレンは顔を合わせて苦笑した。
「あ、笑いましたね」
「笑ってないぞ」
「笑ったら負けです。言うことを一つ聞いてください」
「なんだそれ」
「キノコルールです」
「キノコルール?」
「ユザは私と友達になりなさい。レンさんは私と友達になりなさい」
「どうするんだ? ユザ」
レンが言ってペットボトルのスポーツ飲料を口に含んだ。
「まあ、お安いご用だけど」
「次に、ユザの昔好きだった女子の名前を教えなさい」
「何でだ? 一つじゃないのか?」
「マナだろ?」
「おい、レン!」
「マナ? あ、この間の漫談に登場していた人物ですね。実在しているんですかー?」
「1組にいるだろ」
レンがおにぎりをほおばる。
「そうですか! 後で顔を見にいきます」
「見なくて良い! それより飯だ」
俺は弁当箱の中身を片付け始めた。
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