蛇睨み
カグヤがストレッチをするようにゆっくりと首を回した。そして前の席を勧めた。俺たちは座る。
「で、なんのつもりじゃ?」
瞳が怒っていた。
俺はなるべく視線を合わせずに答えた。
「カグ姉。お笑いで勝負してくれ」
「嫌じゃ」
彼女はお茶をすすった。
「おかしな話じゃな。余はお笑いなど、やったことない。しかしお主らは経験がある。余が勝てる見込みは無いのう。第一、どうして勝負をするのだ?」
彼女はすっとぼけているように見えた。
花井家がカシオペアの幹部クラスに働きかけてキノコのお父さんを転勤させるつもりだから。というカードはまだ切らない。
マリナからは他のカードを手渡されていた。俺はポケットから一枚の封筒を取り出す。カグヤの前に差し出した。
「なんじゃ?」
彼女が封筒を切って中から写真を撮りだした。
小学生のカグ姉が裸で、しかも笑顔でピースをしているものだ。水遊びをしていた時のものだ。マリナがクローゼットのアルバムから見つけてきたのだ。
カグ姉の顔が朱に染まっていく。
「ほお、考えたのう」
声が小さかった。両目は涙ぐんでいる。
「この写真を生徒に配るのか?」
「勝負をしてくれなければ、そうなります」
「本気だのう」
カグヤは立ち上がった。こちらを向く。
またあの目だ。
俺は蛇に睨まれたカエルのように動けなくなる。
「猪瀬さんとやら」
カグ姉は俺のことを名字で呼んだ。しかもさん付けである
「写真をばらまきたければそうするがよい」
俺を指さす。
「今日より、この校内にて、お笑い活動を取り締まらせてもらう」
カグヤは背中を向けた。
「出て行くがよい」
俺とキノコは顔を合わせて立ち上がった。




