企て
校門の前で広告を配っていた。
「おはようございます。6月24日に、お笑いのイベントがあります。よかったら来てください」
「お願いします来てください」
俺とキノコははきはきとした声で登校する生徒に配った。
広告は昨日マリナがパソコンで作成したものだ。
場所は朝塚浜プラザ。生徒会長 対 スベスベステューデント お笑い対決 と書いてある。写真がデカデカと載ってあり、俺とキノコはファイティングポーズをとっている。対するカグ姉は両手を腰に当てて自信に満ちた顔をしている。このことはカグ姉にはまだ知らせていない。まことに勝手な宣伝であった。
「本当にこれで良いのか?」
俺はぼやく。
「良かったら来てくださーい」
キノコが間延びした声を出す。
そして、二十分も配ったところで教師が様子を見に来た。教師は二人いた。怪訝な顔で俺たちから事情を聞く。
「おい、カグヤさんはこのことを知っているのか?」
顔がしわがれた教師が言った。
「はい、知っています」
キノコは胸を張った。
「そうなのか? 君たち、一度来なさい。カグヤさんに聞きに行くから」
「はい、分かりました」
二人の教師に先導されて俺たちは生徒会室に向かった。中には数人の生徒会のメンバーと、カグ姉がいた。彼女は俺たちを見つけると好戦的な顔つきをする。イスに座ったまま言った。
「おはよう、二人とも」
「カグヤさん」
教師の一人が広告を彼女に渡した。
「これは、本当なのか?」
「なんじゃこりゃ」
カグヤは眉を寄せる。そして俺たちを見て、右手を顎に当てる。目をつむった。何か考えている様子だ。
教師が怒った。
「君たち、カグヤさんは知らないと言っているぞ」
「そうですよ。勝手なことをしたんですか?」
「よいよい」
カグヤの声はいつもよりトーンが低い。
「先生方、こやつらは余の友人じゃ。余をびっくりさせようとして、サプライズをしかけたのだろう。怒らずに、問題として取り上げないでくれるかのう」
「いいんですか?」
「よい」
「そうですか」
教師たちはこちらを振り返る。
「あんまり勝手なことするなよ」
「君たち。友達でも、礼節は払うようにね」
「はい」
「すいませんでした」
俺とキノコは低頭する。
「でも、カグヤさん。もうこの二人は広告をたくさん配ったようだから。学園中に噂が広まってると思うんだが」
「そりゃーちと困るのう」
「どうするんですか?」
「よい。こちらで何とかする」
「そうですか」
教師がまた振り返る。
「あんまりカグヤさんを困らせるな」
「困った人たちですね」
「先生方。ちょっと、二人と話がある。席をはずしてもらってもよいかのう」
「……そうですか。分かりました」
教師は互いに目配せしそれから生徒会室を出て行った。




