ツインテール
「はいはいはーい。そこのバカップル。辛気くさい顔してないで、スマイルスマイル」
二人の間からマリナが顔を覗かせた。
「マリナ」
「いたんですか?」
「さっきからいたわよ。人をお化けみたいに言わないでくれる?」
「マリナ、話は聞いてたか?」
「うん。ずばり」
彼女が人差し指を立てる。
「カグ姉に吐かせるしかないわね」
「やっぱりそうか」
「吐かせるって?」
キノコは不安げな顔をする。
「警察に電話しても花井家が相手だし。キノコさんのお父さんの上司に頼んでも、普通に考えてどうにもならない。花井源三に直談判なんてもってのほか。門前払いされるわ。残された手段は、キノコのお父さんが転職するか、カグ姉に吐かせる、つまり罪を認めて自首してもらうしかないわ」
「どうすればいい?」
「そんなこと可能なんでしょうか?」
「うーん」
マリナは右手をおでこに当てる。
「例えば、ちょっとひどいけどレンちゃんに拷問してもらうとか」
「えげつないな」
「それは……」
「相手も手段を選んでないわ。カグ姉には良い薬だと思うけど。でも、そうね。それは最後の手段にしましょう」
「何か手があるのか?」
「お兄ちゃん」
マリナはため息をついた。
「私を誰だと思っているの?」
「凄いんですか?」
キノコは希望が沸いてきたのか顔を徐々に明るくした。
マリナがメガネをくいっと上げる。
「私は頭脳班よ。相手が日本一の金持ちであっても、勝負を覆すことは可能だわ。なぜなら、相手は色んな弱点を抱えているから。それは例えば、カグ姉が同じ恋ヶ海高校という場所にいて、卒業するまで同じ規則を守らなければいけないということ。カグ姉の弟であるところのヤマトちゃんは、まだ頭角を現していないということ。また例えば、こちらには実力最強のレンちゃんがいること。後はまあ、ちょっとぼけぼけしたお兄ちゃんと、男たらしのキノコさんがいるってことね」
「なんだよぼけぼけって」
「私は男たらしじゃないです」
「言葉のあやよ」
マリナは髪をかきあげる。ツインテールの片方がなびいた。
「キノコさん。お父さんの転勤はいつ?」
「ちょうど一ヶ月後です」
「お兄ちゃん。近々、お笑いの対決ができるようなイベントやお祭りはある?」
「お笑い対決?」
無い。……いや、あるじゃないか。
キノコと出ようと思っていた高校生限定のお笑いのイベント。
「ある」
「それは何月何日?」
チェックしてあった。
「6月24日だ」
「わーお。今からちょうど一ヶ月後ね。これで、条件はそろったわ」
「勝てるんですか?」
「今のところフィフティーフィフティーね。二人とも、これから私がする話を良く聞きなさい」
マリナが作戦を伝えていく。




