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暗躍する大人

 

 夕食前。


 俺とマリナはテーブルのイスに座って話をしていた。


「金髪が良いって」

「俺は、お前は茶髪が似合うと思うけどな」

「金髪だよ。お兄ちゃんも去年したじゃん」

「まあ、そうだけど」


 マリナは髪を染めたいようだ。彼氏が出来たと言うことで浮かれているのかもしれない。髪を染めるにしろ、夜遊びをするにしろ、若いうちにやっておいた方が良いと思った。


 部屋のインターフォンの音が鳴った。


「ユザ、出てくれる?」


 キッチンで食事を作っている母さんが言った。


「分かった」


 俺は立ち上がって玄関へ向かう。


 鍵をはずし、ドアを開けるとそこにはしょんぼりとした顔があった。


 キノコだ。


「どうしたんだ?」

「ユザ、ちょっと、お話できますか?」

「いいけど」


 俺は後ろを振り返り、またキノコを向く。


「出るか?」

「はい。できれば、公園で」

「分かった」


 俺は靴をはいて外に出た。


 二人で通路を歩いてエレベーターに乗る。無言の沈黙を破ったのは俺だ。


「何かあったのか?」


 キノコは階数の表示を見たままなにも答えない。


 俺は少し腹が痛くなった。


 エレベーターを降りてマンションを出る。道路を挟んですぐの公園に入った。キノコがブランコの方に歩いて行くのでついて行った。並んでブランコに腰掛ける。


「ユザ」

「ああ、どうした?」

「私」


 キノコは顔をくしゃっとさせて下を向く。


 少しして、再び彼女が口を開いた。


「転校、します」


 俺はぎょっとした顔をしているだろう。


「突然だな」


 今日恋人になったばかりなのに。


「カグヤに何か言われたのか? 何か、されたのか?」

「お父さんが転勤するんです」

「お前のお父さんの会社は、なんていう名前なんだ?」

「カシオペアって言う、キノコの会社です」

「カシオペア、か」


 俺でも知っていた。テレビでもCMを見かけることがある。大手の会社だ。


「タイミングが良すぎるな」


 俺は空を見上げた。五月になって日が長くなったとはいえ薄暗くなってきている。


「やっぱり、カグヤさんの、花井家の力が働いたのでしょうか?」


 花井自動車株式会社。車の世界販売台数は世界一だ。会社のトップはカグ姉やヤマトの父親であるところの花井源三である。


「そうとしか考えられない。だけど」

「だけど、何ですか?」

「一体、どうやって?」


 花井自動車とカシオペアは直接の関わり合いは無いはずだ。いや、例えば花井源三とカシオペアの重役の誰かが友人関係であったなら。母校が同じであったなら。ワイロを使えば。可能なのか?


「卑怯だな」

「ユザ、どうしましょう」

「ちょっと待て」

「はい」


「はいはいはーい。そこのバカップル。辛気くさい顔してないで、スマイルスマイル」


 二人の後ろからマリナが顔を覗かせた。


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