折れる心
「レンさん、マリナさん、おめでとうございます」
紙吹雪が二人にかかる。
驚いて振り返っていた。
「キノコ、ありがとう」
レンが頭を撫でて紙くずを落とす。
「キノコさん、どうも」
マリナは控えめに頭を下げた。
俺は言った。
「レン、マリナ、おめでとう」
やっと少し、ましな気分になった。
「ところで、ユザ」
レンが水を向けた。
「どうした?」
「昨日の話をマリナに聞いたんだが、お前とキノコ、付き合ったんだってな」
キノコがこくこくと頷いている。マリナは両目をうるうるとさせて下を向いた。
「ああ、だいぶ前に付き合うことになったよ」
皆がぱあっと顔を明るくした。
「お笑いのコンビとして、相方というお付き合いをすることになった」
レンが近づいてきて俺の首に手を回した。そのまま窓側へ歩く。
「ユザ、付き合っとけって」
「何でだ?」
「俺とマリナも付き合ったんだ。お前もだ」
「ダメなんだ」
「どうして?」
「笑いにキレが無くなる」
「そんなのどうでもいいだろ」
「どうでも良くない」
「じゃあこうしようぜ」
レンは立ち止まった。俺もつられて立ち止まる。
「一ヶ月、お試しで付き合うってのはどうだ?」
「なんだそりゃ」
「一ヶ月付き合って、笑いにキレが無くなったら別れる。な、それならいいだろ」
「なんでお前はそんなに俺とキノコをくっつけたがるんだ?」
「恩返しだ」
レンの言う恩返しがどれをさしているのか、分からなかった。出会ってから今までのことの全てだろうか。
「俺たちだけ幸せになる訳にいかないんだ」
レンは引け目を感じている。
「キノコにも約束しちまったし」
「どういうことだ?」
「お前とキノコをくっつけてやるって。昨日、キノコは俺たちに大勝利をもたらした、これも恩返しだ」
「まあ……いいか」
「おっしゃー!」
レンが俺の首から手を離した。右手を突き上げて女子二人の元に戻っていく。
「キノコ、ユザが付き合ってくれるってよ」
「ほ、本当ですか!」
「おう、なー、ユザ」
俺は振り返る。
「一ヶ月のお試しでな」
「一ヶ月?」
キノコがぽかーんとした。
「お兄ちゃん、何それ、ひどくない?」
マリナが両手を腰に当てた。
「せめて三年のお試し期間でしょ」
レンが顎をなでる。
「いやー、十年のお試し期間がいいと思うぞ、俺は」
キノコが両手を握って顔の前に上げる。
「私としては、控えめに言って永遠のお試し期間を希望します」
「なんでやねんお前ら」
俺は三人に歩みより、それぞれに頭を一発ずつはたいた。
ふと、廊下から一人の女子が顔を覗かせた。
同級生が登校してきたのかと思ったが違った。
現れたのはカグヤだった。




