衝撃
マンションに着いた。俺たちはエレベーターに乗る。六階で降りて通路を歩く。部屋の前でキノコが声をかけた。
「ユザ、待ってください」
「なんだ?」
俺は立ち止まって振り返る。
キノコが両手をもじもじとさせて下を向いていた。
「わ、私たちは」
声が裏返っている。
「つ、付き合うことになったんですか?」
「バカ、そんな訳ないだろ」
俺は部屋のドアノブを握った。
「あれは、コントだから告ったんだ」
「そ、そんなー」
キノコはへなへなとしゃがみ込む。俺は玄関に入った。うれしいことに、マリナとレンの靴があった。
「ただいま」
リビングでながまっている母さんに帰宅したことを告げる。
「ユザ、レン来てるよ」
母さんにとってレンは我が子のようなものである。
「ああ、分かってる。キノコも上げるから」
「夜更かしはダメよ」
「ああ」
父さんは仲間の付き合いで飲みに行っているとのことだ。俺はまた玄関に戻った。ドアを開けるとキノコはまだそこにしゃがみ込んでいた。
「キノコ、お前何やってんだ?」
「振られたんです」
「振られた? ふふ」
「ユザに振られました」
「早く上がれ」
「嫌ですぅ」
キノコはぷっくりと頬を膨らませてそっぽを向く。俺は舌打ちをした。
「分かったよ」
「付き合ってくれるんですか?」
キノコがこちらを向いて立ち上がる。目をきらきらとさせていた。
「漫才グランプリで優勝したらな」
漫才グランプリとは、その年の漫才ナンバー1を決める日本の祭典だ。テレビではライブで生中継される。
「いつの話ですか!」
キノコは遠い目をした。
「すぐだよ、すぐ」
「うー、分かりました」
「分かったんなら、早く入れ。レンとマリナが待ってるぞ」
キノコは玄関に入り靴を脱いだ。階段を上って俺の部屋の前に来る。扉を開けた。
「んー」
「……」
レンとマリナがキスをしていた。




