余韻
小さくなっていくキャンプファイヤーの炎を眺めていた。
花が散ってしまった桜の木の下。俺とキノコは体育座りをして並んでいた。俺は疲れていた。今日は忙しかった。うとうととして頭が揺れる。一応フォークダンスを踊りはしたが、ずっと踊り続けるのは体力の限界だった。
「何も聞かないんですね」
「ああ」
「どうしてですか?」
「どうしてって」
「どうしてですか?」
「だってさ」
俺は顔を自分の膝にしずめる。
「お前だって、お前なりに戦ったんだろ?」
キノコははっとした顔をした。
「分かるんですか?」
「なんとなくな」
「ヤマトさんに告白された時に、振ってやろうと思ってたんです」
「ふーん」
「あの時のことは、演技ですからね?」
お笑い対決で負けたすぐのことを言っているのだろう。
「お前、レンに謝れよ?」
「電話をかけようと思ったんですが、怖くて」
キノコはポケットからスマホを取り出す。
「勇気を出せ」
「殺されるかもしれません」
「その時はその時だ」
「死ぬなんて」
「しょうがねえ女だなあ」
俺は立ち上がった。
「ユザ?」
キノコもつられて立った。
「帰ろう」
「ユザ、もう少し」
「ダメだ」
俺は歩き出す。散り祭の夜は自由解散のため担任の敬子に報告する必要は無い。
「いまは余韻にひたっちゃダメなんだよ。だってさ、レンとマリナだって、戦ってくれたんだ。感謝しないと。多分、俺んちにいると思うから」
「は、はい」
「行くぞ」
薪が割れてバチッと音を立てる。フォークダンスの賑やかなメロディーを背中に、俺たちは帰路についた。




