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決行


 フォークダンスが始まる前に生徒会長のあいさつがあった。カグヤである。グラウンドの端でマイクを持ち、話し出した。


「ええ、マイクは入っておるようじゃの。皆の衆、今日はご苦労であった。例年通りではあるが、これからフォークダンスを始めようと思う。若い男子女子の諸君。恥ずかしいからと言って、踊らないのは許さんし、踊れもしなければ、異性にモテんぞ。飲み物はグラウンドの校舎側に用意してあるので、飲んでよいぞ。それじゃあ、堅苦しい話はこれまでにして、フォークダンスの開始じゃ。音楽を流すぞ」


 その時だ。


 校内放送が鳴った。


「学校の生徒に告ぐ。俺の名前は、猪瀬ユザ」


 皆が校舎を振り返った。


 このボイスは録音されたものだ。いま放送室に忍び込んでいるマリナが流している。


 放送は続く。


「俺は、今から同じクラスの女子に告白する」


 見つけた。


 遠目にヤマトとキノコが並んで立っている。ヤマトは動揺しているのか挙動不審に辺りを見回している。


「森山キノコ。君が好きだ。付き合って欲しい」


 ヤマトが走り出した。俺は緊張する手でスマホを操作した。


「キノコ、好きだ、付き合ってくれ」


 ヤマトがカグヤの元にたどり着き、マイクを奪うように取る。


「キノコ、俺と来てくれ」


 彼がマイクをONにする。


「ええ、生徒の皆さん。二年五組、花井ヤマトです。なんですかね、この馬鹿げた放送は」


 ぴたりと放送がやんだ。


 俺からスマホで合図を受けたマリナが止めたのだ。


「皆さん。良い機会だから、言っておきますが。森山キノコ、本名長井直美は、この花井ヤマトとお付き合いしています。繰り返します、直美は俺と付き合うことになりました。皆さん、温かい目で俺たちを見守ってください。それと今の放送は――」


「ちょっと待った!」


 俺はグラウンドに歩いて行った。


 視線を感じる。


 生徒たちの話し声が聞こえた。


 俺はヤマトの前に躍り出る。


「ヤマト、お前は間違っている」

「ユザ、来たか」

「キノコは、お前と付き合っていない。なぜなら」


 ヤマトがマイクをOFFにする。地面に置いた。


「俺の相方だからだ」

「やってくれたな」


 ヤマトの目は充血していた。


 彼の隣にいるカグヤがいつもは見せない真剣な顔をしていた。彼の肩に手を置いて何か耳打ちする。彼の顔から焦りの色が消えた。


「ユザ、お前は前にこう言ったな。最後に勝つこと以外に何がある? と」

「それがどうかしたか?」

「その言葉、今も尚言えるか?」

「言える」

「じゃあ、今日の勝ちはくれてやろうじゃないか」


 ヤマトがにやにやと笑った。背中を向けて歩き出す。


「今日はキノコを渡すとしよう。だが明日はどうかな。ふは、フハハ」


 まずいな。


 ここでヤマトに引き下がられると今度は大人が出てくる。


 カグヤの入れ知恵だろうか。


 ダメだったか。


 初めから五分五分の勝負である。


 ここまで来ただけでも良くやったものだ。


 俺は顔をしかめて地面崩れ落ちる。


 ごめん。

 

 レン。


 マリナ。


「お待ちください」


 俺の背中を抱き留める者があった。


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