バトンタッチ
後ろからマリナの声がかかった。振り返ると彼女は呆然と立ち尽くしている。
レンは険しい顔をして立ち上がり、振り返る。
「マリナ?」
「レン、ちゃん」
「マリナ、なんであんな奴に味方したんだ」
レンはゆっくりと近づいて行く。
「レン」
牽制しようとする俺をレンは振り払った。
「マリナ、お前、頭脳班だよな」
マリナは頭が良かった。どんな困難も弱点を分析しては俺たちを勝利に導く。俺たちの参謀である。
「ごめんなさい、私、てっきり、こんなことになるなんて、思わなくって」
「ざけんじゃねえ」
レンは吠えた。続ける。
「なあ、なんか、良い方あるんだろ? あの糞生意気な男を地獄に突き落とす方法。考えてあるんだろ? そうだよな。そうじゃねーと、おかしいって」
「ごめん、私」
「あるんだよなあ」
「こ、これから、考える」
マリナはぶるぶると震えた。
「これから? 何言ってんだ? お前ちょっと頭おかしくなってるって。一発殴って治さねーとなあ」
「レン、やめろ」
さすがに俺は彼の体を押さえる。
「くそったれが」
レンはつばを吐き捨てた。体をよじって離れ俺から距離を取る。
「リーダー、俺、帰るわ」
「ありがとう」
「なんかあったら、電話くれや」
レンはズボンのポケットに両手を突っ込んで帰って行った。カバンは学校に置いてきたままだ。
俺はマリナに顔を向ける。
「あーあ、レン怒っちまったぞ。どうするんだ?」
マリナはもう涙目だった。
「そんなこと言ったって。あんな女と、一緒にいる方が悪いし。大体あの女、最初っからどっか変だったし。私何度も見たことあるんだ」
彼女は早口だった。
「お兄ちゃんが出るお笑いの大会に毎回出場してて。いつもお兄ちゃんのこと睨んでて。その時はなんとも思ってなかったけど。転校してきたって知った時、私は簡単に分かったよ。お笑いじゃ勝てないからって、女を武器にしてお兄ちゃんを取りに来たんだって。あんな弱くて卑怯な女、許せる訳ないじゃん。それなのにお兄ちゃんもレンちゃんも簡単に騙されちゃって、でも、私は騙されないよ」
「それで、ヤマトに味方したのか?」
俺は至って落ち着いていた。
「うん。だって、しょうがないじゃん」
「お前は」
俺はマリナに歩み寄り、頭にぽんと手を置いた。
「お前なりに戦ったんだな」
「うん」
マリナはしとしとと泣き出した。
「お前達は、ずるいな」
「何が?」
「俺を、置いてけぼりにしやがって」
帰り道とは反対方向に歩き出した。
「今度は、俺が戦う番じゃないか」




