末路
呆れたような声が上がった。振り向くと、キノコが両手を開いて顔を振っていた。
「なーんだ、ユザもこの程度でしたか」
「お前、何言ってんだ?」
レンが矛先を向ける。
「何言ってるって。ユザは負けたんですよ。彼について行った私はバカを見たんです。最悪です。あー、良い恥じかいちゃいました」
「お前、今の話聞いてねーのか?」
「聞いてましたよ。だから、ユザは金と権力の力に押しつぶされたんです。レンさんみたいな暴力男には分からないかもしれませんが、世界には様々な力があるんです。ユザはそれに、負けてしまったんです。思えばあの漫才も、幼稚なできばえでした」
俺は真っ青になる。
「ヤマトさんにデートしてもらいます」
「ぶっ殺す」
レンがキノコに飛びかかる。
キノコは背中を向けて走った。走りながら、
「ユザみたいなインポ野郎とは、縁を切ります」
「女だからって手加減しねーぞ」
レンがキノコの背中を倒した。馬乗りになる。
「コンビは解散です」
「おめーから誘ったんだろうが」
「ユザは一生負け男です」
レンが拳を振り下ろす。
その手を大きな手が受け止めた。
「誰だ?」
レンが顔を上げるとそこには学年一の巨漢の姿があった。ヤマトである。その後ろにはマリナの姿もあった。
「女に暴力とは、お前も卑劣だな」
「ああ?」
レンはもうスイッチが入っていた。立ち上がる。
「そもそもおめーが悪いんだろうが」
「ヤマト様について行きます」
キノコが叫んだ。
レンは虚を突かれたような顔をする。
「キノコよ。分かったか、花井ヤマトに逆らうこの男たちが、どれほど愚かであるか」
「分かりました」
猫なで声だった。
「ヤマト様」
キノコはヤマトの腕を両手で掴み、レンと俺を睨みつける。
「助けてください。この男が、私に暴力を」
「レンとか言う奴。キノコはもう俺の女になった。いいか、キノコは俺の女なのだ。分かったら、とっとと失せろ」
レンは眉間をぴくぴくとさせる。
「キノコ、お前、そんなつまんねえ女だったのか?」
キノコは表情を厳しくする。
「レンさんなんかに言われたくありません。私は、強い男とセックスがしたいんです」
「……ユザ、行こうぜ」
レンはこちらを振り返る。
「ああ」
レンが廊下を歩いて行く。俺はその後を追いかけた。一度だけ立ち止まって振り返る。
「キノコ」
「何ですか?」
「お前と漫才やれて、俺、ちょっとだけ、楽しかったよ」
「私は」
キノコは唇を噛んだ。
「恥かいちゃいました」
もう泣きたい気分だった。ここまでコテンパンにされたのはいつ以来だろうか。俺は逃げるように歩いた。
「お兄ちゃんっ」
マリナが心配そうな顔で追いかけてきた。




