トリック
体育館から出ると、レンが待っていた。興奮したような様子で近づいて来る。
「ユザ、これを見ろ」
彼は二枚のチケットを持っていた。そこにはこう書かれていた。
修学旅行券。券には生徒会長の印が押してある。
なんだこれ。
もう一枚を見る。こちらは商品券だった。この散り祭で、どこのクラスでも使える一万円分の券。こちらにも生徒会長の印が押してある。
「体育館に入る時、文化祭の役員が廊下で配ってた。俺も渡されたよ。券をもらう代わりにヤマト&マリナのパフォーマンスに拍手してくださいってよ。バカじゃねえかあいつら。卑怯すぎる」
「汚ないな」
「学生にはこっち」
レンが修学旅行券を指さす。
「一般の客にはこっち」
商品券を指さす。
「カグ姉まで、か」
生徒会長の印を押したのはもちろん彼女だ。カグヤは司会で俺たちの勝利をほのめかすような発言をしていたが、ヤマトの味方だった訳だ。姉弟なんだから当然と言えば当然だ。
「ユザ、俺がやろうか?」
レンがどう猛に歯を光らせた。
俺たちの実行部隊、レン。軍隊育ちの彼。戦争で両親を失い自暴自棄になっていた彼を助けたのは俺の両親だ。もちろん日本の福祉の力も大いに彼を救ったが。俺とマリナは友達になっただけである。しかしレンは感謝を忘れない。
「待ってくれ」
レンに頼んだら警察沙汰になりかねない。ヤマトはどうなるだろう。
「待ってくれ」
俺は繰り返した。
「ユザ、らしくないな。決断が鈍いぞ」
「考える時間は?」
俺は時計を見た。
「あまりないぞ」
レンがつぶやく。
「あーあ」
呆れたような声が上がった。振り向くと、キノコが両手を開いて顔を振っていた。




