女神の微笑
「それでは、いやはや、お笑い対決の勝敗は決まったようなものじゃが。審査員はお客様の皆さんじゃ。スベスベの二人にも出てきてもらおう」
カグヤが舞台裏に顔を向ける。
俺とキノコは顔を合わせて笑顔になった。
二人で出て行く。ヤマトたちとはカグヤを挟んで並んだ。彼女が話しを振ってくる。
「ユザ、ヤマトたちのコントはどう思った?」
「知り合いとして恥ずかしかったです」
「そうじゃのう」
カグヤは賛同の笑みを浮かべた。
「キノコ、お前はどう思った?」
「マリナさんが可哀相で仕方ありませんでした」
「余も同感じゃ」
カグヤは前を向く。
「それでは、皆の衆。審査を頼む。良いと思った方に拍手をしてくれい。まずは、スベスベステューデントが良いと思った方」
体育館中の弾けるような拍手喝采。
が、あるはずだった
あれ?
静寂。
俺とキノコは再び顔を見合わせる。
不安な表情。
もう一度前を向く。
たった一つの拍手。見ると、レンが一生懸命両手を叩いていた。
どういうことだ?
カグヤはやれやれと言った風に頭を掻いた。
彼女は俺にすまないとでも言いたそうな視線を送る。
「次に、ヤマト&マリナが良いと思った方」
今度こそ体育館は拍手喝采に包まれた。
俺は呆然とした。
キノコは下を向いて両手を握り、体をぷるぷると震わせた。
「当然の結果よ!」
ヤマトは右手を突き上げる。
「皆、ありがとう!」
マリナが両手を合わせて握った。
カグヤが引き継ぐ。
「それでは、今回のお笑い対決を、ヤマト&マリナの勝ちとする」
おかしい。
舞台の出来映とは違う力が働いている。
異常発生。
思考開始。
俺は客を観察した。
両手を打ち鳴らしているが、誰も笑顔を浮かべていないこと。
ヤマトとマリナがやけに自信満々だったこと。
カグヤが勝者たちに感想の質問をしている。
俺の耳には外国語のように耳に入らなかった。
「それでは、次の発表に進もうかのう。四人とも、下がって良いぞ」
カグヤがマイクをオフにして、俺の肩に手を置いた。
「すまんの」
「あ、はい」
「花井家の次期頭首を品定めに来てる連中がおる」
「は?」
「ヤマトに負けは許されないのじゃ」
悟った。
つながった。
初めから、俺とキノコに勝利は無かったのだ。
どんな方法を使ったのか分からないが客は敵だった。そういうことだ。




