火花
漫才を終えた俺たちの元に、マイクを持ったカグヤが近づいてきた。
「いやあ、二人とも凄かったのう」
「あ、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
俺は汗だくだった。セリフをど忘れせずに済んだことに安堵していた。
「ずいぶん、練習したんじゃろ?」
「はい、結構」
「いっぱいしました」
「今回はどうして、発表会に出ようと思ったのかのう?」
「芸人ですから」
「楽しいですから」
「楽しい! 楽しいって言うのは重要じゃな。わしも生徒会長を楽しいからやっとっての。楽しくなければ続かんわ。キノコはお笑いが楽しいんじゃな」
「はい」
「それでなんじゃが、ネタは、どっちが考えたんじゃ?」
「俺です」
右手を上げる。
「どうやって考えたか、聞いても良いかの?」
それからもカグヤの質問攻めが続いた。俺は真面目にはきはきと答えるのに対し、キノコは天然なのか故意なのか分からないボケをかまし、観客からウケを取った。
「ふむ、肝がすわっておるのう。将来有望な二人じゃ。これからも、続けてゆくんじゃぞ」
「「はい」」
「それでは、下がってよし」
「「ありがとうございました」」
俺たちは舞台裏へと歩いて行く。ピンマイクをオフにしてはずす。そこで待機していたヤマトとマリナに渡した。
「ほらよ」
俺は投げる。
ヤマトは受け取り、
「ユザ、気づいていないのか?」
「何がだ?」
「ふん、お前たちの漫才は、ダメだ」
さすがに頭にきた。
「お前に何が分かる? お前はお笑いをやったことがあるのか? お前ぶっ飛ばすぞ」
「興奮するな」
ヤマトは笑った。
「教えてやろう。お笑いの神髄とは、こう言うものなのだ」
ステージ上でつなぎのトークをしていたカグヤがこちらに顔を向ける。ヤマトは右手を上げてサインをした。
カグヤが司会進行をする。
「それでは、次は、何と我が愚弟の登場のようだのう。弟がお笑いをやるとは、わしは耳栓をしてるとしようか。皆の衆、パフォーマンス中に空き缶を投げつけても良いぞ」
観客の中からクスクスと笑い声がこぼれる。
「スベスベステューデントと同じで、お笑いコンビのようじゃ。コンビのもう一人は、わしの幼なじみにして、先ほどのユザの妹だのう。どんな化学反応が起こるのか皆の衆、こうご期待じゃ。それでは、ヤマト&マリナの登場じゃ。拍手をしてくれい」
観客が手を叩く。
ヤマトとマリナがステージに向かう。
「マリナ」
俺は思わず名前を呼んでしまった。
マリナは一瞬こちらを振り返ったが、急いで前をむき直した。
「ユザ」
キノコが俺の肩に手を置く。
「キノコ、俺たち、勝てるよな」
「祈りましょう」
ステージではヤマトが声を張り上げた。




