デビュー
ピンマイクは二人ともONになっていた。
「スベ」俺はつるつるの頭をなでる。(繰り返し★)
「スベ」キノコは左手をなでる。
「スベ」★
「スベ」キノコは両手で頬をなでる。
「スベ」★
「スベ」キノコは滑って転びそうになる。
「スベスベ」★
「この床スベスベですよ」
「「どうもスベスベステューデントです。よろしくお願いします」」
二人で礼をした。再び拍手が起こる。どこかで大声が上がった。
「ユザー! キノコー!」
レンの声だ。応援してくれている。もう、やるしかない。俺とキノコは目を合わせた。うなずき合う。
「キノコさん、ついに来ましたね」
「来ましたね。私たちが」
「いや、俺は散り祭の日が来たって言いたかったんだけど」
「来ましたよ。それはつまり私たち、スベスベステューデント」
キノコはバンザイをする。
「自信満々だな」
「滑りに来ました」
「滑っちゃダメだろ」
「大丈夫です」
「どこが大丈夫なんだ?」
「滑ったら、ユザさん何とかしてくださいよって言います」
「丸投げすんな」
俺はキノコの頭をはたいた。
「ユザさん何とかしてくださいよ」
「まだ滑ってないからな」
「ユザさん何とかしてくださいよ」
「もう一度言ったら滑るからな? お前絶対言うなよ」
「ユザさん、ちょっと良いですか?」
「おお、言わなかったな。何だ?」
「お客さんがさっきから全然ウケて無いんですけど、何とかしてくださいよ」
「あー、良い所にキノコがある。夕食の味噌汁の具にしよう。よいしょー」
俺は両手でキノコの髪の毛をひっぱる。
「痛い痛い痛いです。ごめんなさいごめんなさい」
二人で前を見る。
「ハゲと」★
「キノコだけに」キノコは人差し指で頬をさす。
「滑って」★
「転んで」キノコはすっころんだ。
「滑って」★
「泣いて」キノコは泣きまねをする。
「滑って」★
「立ち上がって」キノコは立ち上がる。
「滑って」★
「やっぱりこの床スベスベですよ!」
「キノコさん。とりあえずお客さんに自己紹介をしようと思うんだが」
「私からやりますね」
キノコが自分の顔を指さす。
「どうぞ」
「すいません、実は昨日、自転車で蛇をひいてしまって」
「事故を紹介してどうするんだ」
「違うんですか?」
「自分のことを紹介しろ」
「好きな物は、ホストクラブとお団子です」
キノコはノリノリだった。
「ホストクラブ行くの? 高校生なのに? ホストクラブで団子出すっけ?」
「特技は援交です」
「あばずれ? お前あばずれなの?」
「趣味は親孝行です」
「お前どっちか分かんねえよ。まともなのか不良なのか、全然分かんねえよ」
「ユザさん、なんとかしてください」
「今度病院連れてったるわ」
俺はキノコの頭をはたく。
「冗談です」
キノコはいたずらっぽく微笑む。
「冗談? あー、良かった。俺はてっきりデビューのステージで、コンビ解散するかどうか悩んじまったよ」
「ユザさん大げさです」
「大げさじゃねえよ。第一、援交と親孝行は矛盾してるからな」
「援交で家計を切り盛り」
キノコはぼそっと言った。
「最悪だ。詳しくは聞かないけど、社会福祉を頼った方が良い」
「冗談です」
ぺろっと舌を出す。
「キノコさん、真面目に自己紹介しろ」
「しょうがないなー」
「しょうがくねーわ」
「ユザは口悪いです」
「ツッコミだからな。それより早くしろ」
「どうも、森山キノコと言います。皆さん、気軽にキノコと呼んでください。よろしくお願いします」
キノコがポーズを取ってピースする。
「どうも、ツッコミ担当のユザです。噛まないように気をつけます」
「ハゲと」★
「キノコだけに」キノコは背中を向けて軽くジャンプした。キノコ柄のリュックが揺れる。
「滑って」★
「お客さんにキツいこと言われて」キノコは首をかしげる。
「滑って」★
「悩んで」キノコは人差し指で自分の頭を小突く。
「滑って」★
「投げキッス」投げキッスした。
「キノコさん、今日ニュースで見たんですが、また高校生が自殺したみたいですよ」
「あー、私も朝見ました」
キノコが両手を開く。
「好きな女子の前で、いじめっ子にズボンとパンツを下げられたとか」
俺はズボンを脱ぐしぐさをする。
「どうしてそんなひどいことするんですか?」
「キノコさんだったら、友達が自殺するって言ったらどうしますか?」
「ちょっとやってみましょうか」
「キノコさん、俺、今から死ぬんだ」
俺は声色を低くする。
「待ってくださいよ。ユザさんが死んだら私も死にます」
「なんでお前も死ぬんだ?」
「私たち、友達じゃないですか。生きるも死ぬも一緒です」
「俺はもう飽き飽きしたんだ。この腐った世界から、脱出したいんだよ」
「ユザさん、好きです」
「好き?」
「ユザさんは私のことが嫌いなんですか?」
「別にそういうわけじゃないけど」
「じゃあ、生きてください」
「生きる訳にはいかない。俺はもう決めたんだ」
「ユザのことが、好きー!」
キノコは叫んだ。
「一緒にお昼ご飯食べましょう」
「俺も、お前を好きになっていいかな」
「いいですよ。その代わり」
キノコは人差し指を立てた。
「生きてください」
「ハッピーエンドに必要なこと」俺は両腕を組む。
「馬鹿であること」キノコはバンザイをする。
「ハッピーエンドに必要なこと」俺は右手を顎に当てて名探偵っぽくポーズをする。
「頭が良いこと」キノコは人差し指を立てて振った。
「ハッピーエンドに必要なこと」俺は背中を向けて顔だけ振り返る。
「ちょっぴり勇気」キノコが両手で胸にハートマークを作る。
「キノコさん、ところでどうしてそんな格好をしているんですか?」
「キノコだからですよ!」
「キノコが好きなんですか?」
「違いますキノコガールです」
「はい、よく分かりませんが」
「キノコなめんなよ」
「一応聞くけど、キノコさんにとって、キノコとは?」
「神」
「スベ」★
「スベ」キノコは両手で腹をなでる。
「スベ」★
「スベ」キノコは右手でお尻をなでる。
「スベスベ」★
「ああっ、また滑っ」 キノコは転んで寝そべる。
俺は言った。
「スベスベステューデントでした。どうも、ありがとうございました」
キノコは急いで立ち上がる。
「ありがとうございました」
二人で腰を折った。




