表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/88

デビュー


 ピンマイクは二人ともONになっていた。


「スベ」俺はつるつるの頭をなでる。(繰り返し★)

「スベ」キノコは左手をなでる。

「スベ」★

「スベ」キノコは両手で頬をなでる。

「スベ」★

「スベ」キノコは滑って転びそうになる。


「スベスベ」★

「この床スベスベですよ」


「「どうもスベスベステューデントです。よろしくお願いします」」


 二人で礼をした。再び拍手が起こる。どこかで大声が上がった。


「ユザー! キノコー!」


 レンの声だ。応援してくれている。もう、やるしかない。俺とキノコは目を合わせた。うなずき合う。


「キノコさん、ついに来ましたね」

「来ましたね。私たちが」

「いや、俺は散り祭の日が来たって言いたかったんだけど」

「来ましたよ。それはつまり私たち、スベスベステューデント」


 キノコはバンザイをする。


「自信満々だな」

「滑りに来ました」

「滑っちゃダメだろ」

「大丈夫です」

「どこが大丈夫なんだ?」

「滑ったら、ユザさん何とかしてくださいよって言います」

「丸投げすんな」


 俺はキノコの頭をはたいた。


「ユザさん何とかしてくださいよ」

「まだ滑ってないからな」

「ユザさん何とかしてくださいよ」

「もう一度言ったら滑るからな? お前絶対言うなよ」

「ユザさん、ちょっと良いですか?」

「おお、言わなかったな。何だ?」

「お客さんがさっきから全然ウケて無いんですけど、何とかしてくださいよ」

「あー、良い所にキノコがある。夕食の味噌汁の具にしよう。よいしょー」


 俺は両手でキノコの髪の毛をひっぱる。


「痛い痛い痛いです。ごめんなさいごめんなさい」


 二人で前を見る。


「ハゲと」★

「キノコだけに」キノコは人差し指で頬をさす。


「滑って」★

「転んで」キノコはすっころんだ。

「滑って」★

「泣いて」キノコは泣きまねをする。

「滑って」★

「立ち上がって」キノコは立ち上がる。

「滑って」★

「やっぱりこの床スベスベですよ!」


「キノコさん。とりあえずお客さんに自己紹介をしようと思うんだが」

「私からやりますね」


 キノコが自分の顔を指さす。


「どうぞ」

「すいません、実は昨日、自転車で蛇をひいてしまって」

「事故を紹介してどうするんだ」

「違うんですか?」

「自分のことを紹介しろ」

「好きな物は、ホストクラブとお団子です」

 キノコはノリノリだった。

「ホストクラブ行くの? 高校生なのに? ホストクラブで団子出すっけ?」

「特技は援交です」

「あばずれ? お前あばずれなの?」

「趣味は親孝行です」

「お前どっちか分かんねえよ。まともなのか不良なのか、全然分かんねえよ」

「ユザさん、なんとかしてください」

「今度病院連れてったるわ」


 俺はキノコの頭をはたく。


「冗談です」


 キノコはいたずらっぽく微笑む。


「冗談? あー、良かった。俺はてっきりデビューのステージで、コンビ解散するかどうか悩んじまったよ」

「ユザさん大げさです」

「大げさじゃねえよ。第一、援交と親孝行は矛盾してるからな」

「援交で家計を切り盛り」


 キノコはぼそっと言った。


「最悪だ。詳しくは聞かないけど、社会福祉を頼った方が良い」

「冗談です」


 ぺろっと舌を出す。


「キノコさん、真面目に自己紹介しろ」

「しょうがないなー」

「しょうがくねーわ」

「ユザは口悪いです」

「ツッコミだからな。それより早くしろ」

「どうも、森山キノコと言います。皆さん、気軽にキノコと呼んでください。よろしくお願いします」

 キノコがポーズを取ってピースする。

「どうも、ツッコミ担当のユザです。噛まないように気をつけます」


「ハゲと」★

「キノコだけに」キノコは背中を向けて軽くジャンプした。キノコ柄のリュックが揺れる。


「滑って」★

「お客さんにキツいこと言われて」キノコは首をかしげる。

「滑って」★

「悩んで」キノコは人差し指で自分の頭を小突く。

「滑って」★

「投げキッス」投げキッスした。


「キノコさん、今日ニュースで見たんですが、また高校生が自殺したみたいですよ」

「あー、私も朝見ました」


 キノコが両手を開く。


「好きな女子の前で、いじめっ子にズボンとパンツを下げられたとか」


 俺はズボンを脱ぐしぐさをする。


「どうしてそんなひどいことするんですか?」

「キノコさんだったら、友達が自殺するって言ったらどうしますか?」

「ちょっとやってみましょうか」

「キノコさん、俺、今から死ぬんだ」

 俺は声色を低くする。

「待ってくださいよ。ユザさんが死んだら私も死にます」

「なんでお前も死ぬんだ?」

「私たち、友達じゃないですか。生きるも死ぬも一緒です」

「俺はもう飽き飽きしたんだ。この腐った世界から、脱出したいんだよ」

「ユザさん、好きです」

「好き?」

「ユザさんは私のことが嫌いなんですか?」

「別にそういうわけじゃないけど」

「じゃあ、生きてください」

「生きる訳にはいかない。俺はもう決めたんだ」

「ユザのことが、好きー!」


 キノコは叫んだ。


「一緒にお昼ご飯食べましょう」

「俺も、お前を好きになっていいかな」

「いいですよ。その代わり」


 キノコは人差し指を立てた。


「生きてください」


「ハッピーエンドに必要なこと」俺は両腕を組む。


「馬鹿であること」キノコはバンザイをする。


「ハッピーエンドに必要なこと」俺は右手を顎に当てて名探偵っぽくポーズをする。


「頭が良いこと」キノコは人差し指を立てて振った。


「ハッピーエンドに必要なこと」俺は背中を向けて顔だけ振り返る。


「ちょっぴり勇気」キノコが両手で胸にハートマークを作る。


「キノコさん、ところでどうしてそんな格好をしているんですか?」

「キノコだからですよ!」

「キノコが好きなんですか?」

「違いますキノコガールです」

「はい、よく分かりませんが」

「キノコなめんなよ」

「一応聞くけど、キノコさんにとって、キノコとは?」

「神」


「スベ」★

「スベ」キノコは両手で腹をなでる。

「スベ」★

「スベ」キノコは右手でお尻をなでる。


「スベスベ」★

「ああっ、また滑っ」 キノコは転んで寝そべる。


 俺は言った。


「スベスベステューデントでした。どうも、ありがとうございました」


 キノコは急いで立ち上がる。


「ありがとうございました」


 二人で腰を折った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ