散り祭開始 午前
五月の日差しがまぶしい。その日は皐月晴れだった。俺のクラスではうさ耳喫茶を開いていた。服装は制服のままで、エプロンと女子だけうさ耳をしただけのお手軽な喫茶店である。俺はウェイターとなってクラスの女子が作ったホットケーキやコーヒーを客に運ぶ。
「いらっしゃいませー」
うさ耳をしたキノコが声を張っていた。新しく来た家族連れの客が頭を下げてテーブルに着く。俺はキノコに近づいた。
「キノコ、お前本番大丈夫か?」
「ユザが何とかしてくれますもの」
キノコは笑って冗談を飛ばす。
「ふざけるな」
俺も自然と笑みがこぼれた。
「大丈夫です。必勝祈願中ですから」
「必勝祈願?」
「このうさ耳です」
キノコはカチューシャを触った。
「このうさ耳は、実はあのミロのヴィーナスが頭につけていたものです」
「そうなのか?」
あえて否定はしない。
「つまり今の私はヴィーナスの化身な訳です」
「おう」
「微笑みをあげましょう」
キノコがニコッとする。
「ありがとう」
俺はぽんぽんとキノコの頭を叩いた。
「いやそこは違うわでしょう? 荒々しく私の頭を叩いて、微笑みなんて要らんって言ってくださいよ。ユザ、ツッコミにキレが無いんじゃないですか?」
「大丈夫だ」
俺と同じようにウェイターをしているレンがオボンを片手に近づいてくる。
「おい、おめーらもういいぞ」
「おう、レン」
「レンさん」
「後は俺たちがやっておくから、おめーらは練習しろ。本番、午後の最初なんだろ?」
「そうそう、ユザくんたちは行っていいよ」
クラスの女子から声がかかった。
「うんうん」
「頑張ってね」
「応援行くからねー」
クラスメイトが次々と賛同する。俺はうれしくなった。
「皆、ありがとう。絶対勝つからさ」
「ありがとうございます」
キノコが腰を折った。
「キノコ、行くぞ」
「はい」
俺たちは荷物を持って教室を後にした。




