登校
高校二年生になっても俺の頭の中は中二病で、いつまで経ったって大人のように成長できないでいた。やりたいことをやろう。そう思って始めたお笑い活動も、まだお金を得たことはない。でもいつか人間死ぬんだ。死ぬ前に、後悔は残したくない。いやいや、別に後悔したっていいぞ。そう思えるようになったら。俺は少しましになるのかもしれない。
痛々しい俺の脳内独白を披露するのはやめよう。
お下品な話だが、俺は17才にして童貞である。でも、学校の登下校を共にしてくれる女性がいた。今も隣にいる。彼女の名前は猪瀬マリナ。妹なんだけどさ。
「お兄ちゃん、なんか元気無いね。昨日夜更かししたでしょー」
彼女は数日前に入学式を終えたばかりの一年生だ。元気はつらつ。新しい環境に緊張しているのか、やけにテンションが高い。
「してないよ。お前と一緒にするな」
「してたよ。お兄ちゃんの部屋からベッドがぎしぎしする音が、夜中まで聞こえたもん」
「ベッドがぎしぎし?」
「うん。それに、女の人の声も聞こえたよ。すっごく色っぽい声だった」
「AV見てたって言いたいのか?」
「まあ、うん」
「まあ、見た」
「うっわ、変態」
「男はみんな変態なんだよ」
「私の半径一メートル以内に近づかないで」
「お前が離れろよ」
「私は学校に行かなきゃいけないもん」
「俺も学校に行かなきゃいけない」
「走って」
「お前が走れ」
「じゃあ止まる」
マリナは立ち止まる。
「じゃあな」
俺は彼女を置いてさっさと学校に向かって歩いた。東京都恋ヶ海駅からほど近いところにあるその私立高校は変な噂にことかかない。例えば、金を払えば誰でも内申点を上げることができるとか。生徒会長になれば生徒たちに意のままに命令できるとか、そんなのだ。
そう言えばお笑いの大会で入賞できたかどうかというとできなかった。高校二年生で勝てるほど芸能界は甘く無かった。
ふと、学校の門のところに女性が一人立っていた。恋ヶ海高校の制服を着ている。かわいい女の子だ。彼氏でも待っているんだろうか。彼女は俺を見て、両手の平を合わせた。振り返り、玄関へと走って行った。
俺にファンでも出来たのだろうか。
少し、悪く無い気分だった。
だけど違ったんだ。
彼女のせいで俺の人生は少し変わる。