ラブレター
お酒飲みすぎたようです。
今日の受業が終わると、俺は玄関前でマリナを待った。隣にはキノコもいて、最近は登下校を一緒している。
「マリナさん、遅いですね」
「まあもう少し」
もう10分ほど待っていた。ホームルームが長引いているのだろうか。
俺はスマホを眺める。
キノコはゆったりとした足取りで俺と向かい合わせに立った。
「どうしてマリナさんはヤマトさんとコンビを組んだんでしょうか」
「分からない。だけど予想はできる」
「予想ですか?」
「ああ。まず一番に考えられるのが……」
俺が人差し指を立てたタイミングで、接近してくる人影があった。どこかで見覚えのある女子である。確かマリナの友達だ。
「あの、マリナのお兄さんですか?」
俺とキノコはその女子に顔を向ける。
「ああ、そうだけど」
俺は答えた。右手をズボンのポケットに突っ込む。
「これ、クラスの友達からです。受け取ってください」
ハート柄の封筒だった。
「ラブレター?」
キノコが両手のひらをあげた。女子は答える。
「はい。マリナのお兄さんのファンの子です。よろしくお願いします」
「わ、分かったよ」
「それでは、私はこれで」
女子はぺこりと頭を下げて下駄箱に行った。
俺は怪訝な顔をして封筒から便せんを抜き取る。そこには丸文字でこう書いてあった。
親愛なるユザ様へ。
身勝手なのは承知しているのですが、お願いです。今日、学校の屋上に来てください。大切なお話があります。
最初は貴方のことが嫌いでした。だけど、ある日舞台で貴方の姿を見かけた時、分からなくなってしまいました。あの人な何を考えているんだろう。あの人は何でこんなことをしているんだろう。色々考えている内に、私の頭の中はいつも貴方でいっぱいでした。これが恋なのかどうなのかは分かりません。だから、貴方の一番近くに立って、たくさんのお話をしてみたいのです。大切な言葉は、面と向かって言いたいので、よろしくお願いします。
ファンより
便せんを封筒にしまう。俺はぽりぽりと頬をかいた。
「内容は、どうでしたか?」
キノコが心配そうな顔をする。
「まあ、ラブレターだな」
「やっぱり……」
「キノコ、俺はちょっと屋上に行ってくるよ」
右手を上げた。
「ラブレターの子に会いに行くんですか?」
「まあそんなところだ」
俺は階段のある方に体を向ける。
「ダメです」
キノコが立ちはだかった。
「どうしたんんだ?」
「マリナさんはどうするんですか?」
「大丈夫だ」
「だいじょばないです」
「お前、ここでマリナを待ってるか?」
「はい」
「俺はちょっと行ってくる」
「私を倒してから行ってください」
俺はキノコの額にデコピンした。
「痛っ」
キノコは両手で押さえる。
「分かったよ。お前も来てくれ」
「良いんですか?」
「行くぞ」
俺は歩き出した。後ろからキノコがついてくる。




