サクラが散りましたよ祭
俺は静かに読書をしていた。99の涙という短編の詰め合わせ小説。たまにはこう言う泣けるのも悪く無かった。
外では雨が降っていた。しとしとと規則的に校舎を叩く音がに耳に心地よい。おかげで文章に集中ができた。
「ユザユザユザユザッ」
目の前に人影が現れる。俺は体を横に向けた。
「ユザ、聞いてください見てください。これっ、これっ」
彼女は俺の机にポスターを広げる。
「今、読書中なんだけど」
「読書なんてしている場合じゃありませんっ」
「読書が終わったら俺から声かけるから」
「そんなの昼休みが終わっちゃいます」
「ああもう、仕方ないなあ」
パタンと本を閉じる。机の中にしまった。
「それで、何の用事だ?」
「これですっ、見てください」
キノコはポスターに顔を落とす。サクラが散りましたよ祭りというデカデカとした文字。ああ、またこの祭りが来たのか。
「通称、散り祭だな」
「散り祭? ああ、サクラが散ったということですよね」
「ああ、俺は一年の時に参加してるけど、お前は初めてだよな」
「はい」
キノコは両手のひらを会わせる。
「それがどうかしたのか?」
「ここを見てください」
彼女はある部分を指さす。
午後一時から体育館ステージで、学生の出し物発表会と書かれている。
「ユザ、私たちも出ましょう」
「お笑いをやるのか?」
「当然です」
キノコは両手を腰に当てた。
「お笑い芸人たるもの、舞台があればはせ参じる。この期を逃すべからずです」
もうすぐ、学校の外で一般のお笑いの大会がある。俺はキノコとそれに出ようと思っていた。
「東奔西走です。まかりこして候です。さあ、共に累々たる屍の山を築きに行きましょう」
このテンションである。
「分かったよ」
「やったあ」
キノコは飛び跳ねて両手を合わせる。
「ただなあ」
「どうしたんですか? ぽんぽん痛いんですか?」
「痛くねーし。なんだよその赤ちゃん言葉は」
「ベイビー、ユーアーマイン」
「愛の告白しようとしてたのかよ」
「知ってますか? ぽんぽんって言うのは、赤ちゃんがすっぽんぽんだからなんですよ」
「嘘くさいうんちくだな」
「くさいうんちだなんて、お下品な子はめっ」
「……お前、まさかこのノリで行くのか? 舞台をアドリブでやるのか?」
「もちろんです」
キノコが右手を顎に当てる。
「絶対ダメだからな」
「なんでですか?」
「……完成度高めようぜ」
「完成度ですか。ま、まあユザにお任せしますけど。でもアドリブの要素だってあっても良いと思いますが」
「否定はしない。まあ舞台のネタを考える前にエントリーだ。行くぞ」
俺はイスから立ち上がった。ちらっと窓際を見るとレンがダンベルを両手に持ってトレーニングをしている。
「着いてきてくれ」




