行方
放課後になると俺はマリナをとっ捕まえに行った。朝の件でキノコのアザレアを弁償させるためである。教室に行くと、彼女は扉から顔を出して廊下を見回していた。盗人のようにきょろきょろとしている。彼女は俺を見つけると、
「げっ!」
一目散に廊下を駆け出した。
「おい、待てマリナ!」
俺は追いかける。マリナの足はそんなに速くない。首根っこ捕まえるとこちらを振り返らせる。
「キャー、痴漢よー!」
「バカ、変なこと叫ぶな」
まだ暴れるマリナを取り押さえる。そして頭をはたいた。
「行くぞ」
「行くって、どこに?」
マリナは口の端をつり上げる。
「キノコのところだ」
「キノコなら家の冷蔵庫にあるし」
「直美のところだ」
「いやーっ」
俺はマリナの襟を引きずって歩き始める。廊下を抜けて階段を二つ降り、また廊下を歩いて玄関に出た。そこにはキノコのカバンを背負った、これもやはりキノコが待っているはずだった。
「あれ、いないな」
「お兄ちゃんが恐ろしくて逃げたんじゃない?」
「俺を怪獣みたいに言うな。でもどうしたんだろうな。とりあえず、外に出てみるか」
玄関で靴を履き替えて俺たちは外に出た。玄関前を見渡すがキノコの姿は無い。
「お兄ちゃん、いないよ」
「電話してみるか」
俺はスマホを取り出して操作する。何度コールしても彼女は通話に応じない。
「おかしいな」
俺はマリナを見た。
「私は知らないよ」
マリナは首をかしげる。
「俺は知っているぞ」
後ろから地響きのような声が響いた。振り返ると、嫌な笑みを浮かべたヤマトが立っていた。両腕を組んでいる。俺は背中が薄ら寒くなった。
「ヤマト」
「あ、ヤマトちゃん」
マリナは笑顔を咲かせた。久しぶりに会ったはずだ。昔はお互いの家で、何度も一緒に遊んだことがあった。マリナも連れてだ。
「久しぶりだな、マリナ」
「うん、久しぶり」
マリナはぽっと顔を染める。
「ヤマト、キノコがどこにいるか、知っているのか?」
「ああ。教えて欲しいか?」
「教えてくれ」
「やだぴょーん」
ヤマトは両手のひらを頭に立ててウサギのまねをする。
「殴って良いか?」
「そう興奮するな」
ヤマトは歩いて行く。
「着いてこい」
「どこに行くんだ?」
「来れば分かる」
俺は追いかけて歩き出す。
「お兄ちゃん、行くの?」
「マリナ、お前は帰れ」
「ちょっと待ってよ」
「いいから帰れ」
少し強い口調になった。マリナははっとして立ち止まる。俺はヤマトの背中について行った。




