イメージチェンジ
翌日の朝。
その日マリナは不機嫌だった。いつも通り学校に向かって歩いているだけなのによそよそしい。俺から距離を取っているようだ。時事ネタを振っても気のない返事が返ってくる。もしかして昨日よく眠れなかったのだろうか。あの日なのかもしれない。
「なあマリナ、ちょっと足早いぞ」
「普通だよ」
「早いって」
「普通」
やはり怒っているようだ。俺は何か、彼女を怒らせるようなことをしてしまったのだろうか。だとしたら、仲直りしなければいけない。
「マリナ、ごめんな」
「何が?」
「いや、マリナがなんで怒っているのか分からないんだ」
「ふざけんなっ」
マリナは涙目だった。立ち止まる。
「どうしたんだ?」
「ううん、別に髪を切るのは良いと思うよ。最近伸びてきてたし。イメージチェンジだって悪くないよ」
「ああ」
俺はつるつるの頭を撫でた。
「イメージチェンジしたんだ」
俺は笑顔になった。
「どうだ、似合ってるか?」
「意味不明」
マリナはまた早足で歩き出した。俺は追いかける。
「何だ? 意味不明って」
「私の気持ちも考えて」
「お前の気持ち? ああ、俺ズルかったよな。勝手にイメージチェンジしてさ。でも、こう言うのって思い立ったが吉日だろ? 誰にも止められたくなかったんだ」
「じゃあ一つ言っておくけど」
マリナが振り返って人差し指を向ける。
「ああ」
「お兄ちゃんに髪が生えるまで、私、お兄ちゃんと一緒に登下校しないから」
「な、なんでだよ。つれないじゃないか」
「無理」
マリナは顔をそむけて歩き出す。追いかける俺。
「何だ? 太陽の光が反射してまぶしかったのか?」
「話しかけないで」
「兄妹じゃないか」
「恥ずかしいの」
マリナは顔を真っ赤に染めていた。俺は立ち止まるしかなかった。彼女はそのまま歩いて行く。俺は、今度は追いかけなかった。




