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好きですよ、大好きです

 あの一件からあの子とは既に二週間ほど顔を合わせる程度で会話を出来ないままでいる。俺としてはあのツンツン少女がガードしてくれているお陰で平和な新学期を迎えられているのだが相変わらず授業をサボって屋上で何するわけでもなく空を眺めながらお気に入りのアーティストの曲達をループで再生していた。

 無心で音楽を聴いているだけで平気で時間が過ぎていくのを最近見つけたのだ。読書やゲームもいいが一番なにもせずに心穏やかに一人で過ごせる快適な二週間となっている。


 屋上はいろいろと蒸しかえる思い出ばかりだが先輩が屋上に入り浸っていたのもうなずける妙な居心地のよさがある。そもそも屋上は生徒立ち入り禁止の場所で本来は俺がここにいることも駄目なのだが何年か前に屋上の鍵が無くなってから開きっぱなしで鍵を変えるにもドアノブがなぜか特殊なせいで放置されている。いっそのことドアごと変えればいいと思うのだがどうにも予算がとおらないとか何とか去年の生徒会でそんな話を聞いた気がした。


 そういえば今日は珍しく帰りに病院による事になっている。定期検査だとかなんとかでまた雀先生に会えるのだ。確か先生は未婚だとか言ってた気がするなそれならいっそどうでもいいから先生と結婚でもすればいい気もするが軽くあしらわれるのが目に見えるのであの子との婚約に関しても考えながらいかにして結婚せずに過ごせるかどうかを俺は考えていこうと思う。


 「――赤祢さん今日もサボリですね」


 屋上に風が吹き荒れると共にドアのそばにはその張本人が立っていた。

 あのツンツン少女が気になるがまぁいい。イヤフォンを外して曲を停止させる。


 「なにか用?」


 なぜだか心穏やかじゃない。やはり頭ではわかっていても本能的に女を敵だと思ってしまっているのだろうか。

 それなら余計に彼女には今すぐにでも婚約を破棄してもらわないといけなくなる。


 「ここ最近響ちゃんに邪魔されて話できなかったので」


 「そう……」


 つい数日前までは普通に喋れたのに何やってんだ……いや逆に考えろ無愛想なほど俺に興味をなくしてくれるんではないのかと。


 「それでですね私コスプレも趣味なんですけどね最近別のことにはまっていてですね」


 こんな俺にもこうして話しかけてくれるのはとても嬉しい。だがそれだけ。


 「実は最近絵を描き始めたんですよね」


 彼女の手に握られていたスマホをおもむろに操作しては一枚の絵を見せてくれた。お世辞にもうまいとまではいかないが絵のかけない俺からすれば多少なりともかける彼女がすごいと感じた。それ以外にも自作で衣装を作れるんだそれだけでもすごいんだ。


 「特に何する訳でもないんですけどね絵を描くのに夢中になってですね」


 必死に話題を作ろうとしてくれている。以前にもクラスメイトが同情からか無理やり話を振って話しかけてくれたことがあった。俺は無愛想にそう、それでだけを繰り返すうちにいつの間にか消えてしまった。彼女からは下心を感じることは無かった。だからこそ余計に。


 「岸辺さんはなんでこういうのが好きになったんだ?」


 「そうですね……」


 両腕を胸の前で組み唇をすぼませて彼女は考えている。その姿に俺は一瞬だけ可愛いと感じた。かわいいといってもきっと小動物というか愛だのライクだのの感情のある可愛いとは違う。何を言っているんだかおれは。


 「小学生ぐらいの時に友達と喧嘩して落ち込んでたんですよ、そのときにテレビでやってた魔法少女ミィを見たときにワクワクしたんです。それからミィシリーズが終わって悲しかったんですよそれから中二の時に深夜枠で復活したミィを見た後にいろんな作品を知ったんです、それに友達もミィとかいろんな作品を教えてくれた子がいるんですよ」


 目は輝いている。あぁこの子は心から好きなんだと。


 「実はその子が響ちゃんなんですよ」


 そうかだからテンプレ的な少女が出来上がってしまったのか。妙な納得と共に大地の顔を思い出していた。境遇は違えど俺のたった一人の親友だ。


 「それから響ちゃんとの一年は本当に楽しかったんです、だから同じ趣味を持つ赤祢さんが結婚相手で本当によかったです」


 俺は彼女に婚約を取り下げてくれとはいえなくなった。いや言うのをやめたんだ。こんなにも純粋な彼女ならばきっと俺の症状も治してくれるのかもしれない。

年が明けてしまいました。

この作品ももうすぐ一年を迎えてしまいます。

初めてこんなにブックマークをいただけて本当に嬉しい限りです。

更新ペースは相変わらずになってしまうかもしれませんが完結までがんばっていきます。

今年もよろしくお願いします。

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