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一年最後の決意

 昨日から母に耳がたこになるほど自分の身の危険は自分で守れるようにする事と当分の間は門限を十七時にする事にした、帰りは校門にお迎えを用意してもらっているからよりたい場所があれば運転手さんに言えばいいしその際はボディーガードさんを一人つけることになるといわれた。


 まるで一国の王子にでもなった気分だった。男というだけで周囲からは普通とは違う沢山の目で見られているのに俺は更にもう一つ事件の被害者として同情の眼差しと近寄ると悪い事が起こると思われるに決まっている。それこそ俺が疫病神にでも思われているんだろう。……高校で勉強する意味がなければ俺を哀れんで普段通りに接する人なんて少ない、それこそ教師達は目に見えて解るような対応をしてくるに違いない。


 勿論学校に行き来は黒い車と黒いタキシードに身を包んだ男に扉を開けられ俺は重役出勤している。こんな生活がしたかったわけではない。

 車から降りると視線は一斉に俺のほうに向かうとすぐに目を逸らしていく。

 運転手が持っていた学生カバンを手渡される。


「行ってらっしゃいませ」


 頭を深々と下げられ校舎へと向かう。

 俺が歩けばヒソヒソと聞こえるか聞こえないかの微妙な声で俺の話をしていた。普通を手に入れるのももう無理なのかと諦めつつも結局は自分の教室前まで歩いていた。

 ここに入れば今日からあの日から止まった時間が動き出す、そう思っていた――




 いつもと変わらないHRが終わると洲崎のいない無人の机と俺に対する嫌な視線だけが目立った。居心地が悪い。こんな場所に最初から来るんじゃなった。

 担任がいなくなり授業の開始のチャイムが鳴るほんのすこし前に教室から出てどこに行くか迷いながらも足は自然と屋上に向かっていた。


 もしかしたら誰かいるかもしれないと期待していたが扉を開けると歓迎するかのように風が吹く。九月だというのにまだまだ夏の暑さが引きずっていた、そのせいか屋上に吹く風は生暖かく余計人肌が恋しくなるよう感じてしまう。


 扉を閉めて中心に大の字になって寝転がる。

 やはり一人というのは気を使わなくていいので楽だ。

 きっと大地がいたら今の俺にいろいろと言ってくるんだろうがその大地からは一切連絡が無かった。

 それもそのはずだ、俺は大地との連絡先を知らなかった。

 俺が連絡先でも交換しようと言ったのだが大地は笑顔で機械に弱いんだと笑いながら言っていた事を今更ながらに思い出して笑った。


 完璧超人の大地も苦手な事があったなんてな。

 今はどうしているんだろうな。



 「――こんな所でサボリとは不良生徒になったみたいね」


 いつの間にかドアが開いていてそこにはピンク色のパンツの見える生徒会長が立っていた。

 今更そんなのみた所で俺はなんとも思わない、それどころか目の前で吐き出していたのはつい最近だというのに自分のいい加減差に呆れる。


 「別にサボりたくてサボってないですよ」


 「私のパンツを見ても顔色一つ変えなくなったのは少々私としても女の価値が無いんじゃないかと自身を無くしてしまうんだが」


 「別に会長は美人だし勉強も出来て誰からも慕われるいい人だと思いますよ」


 会長を褒めながら上体を起こす。

 会長も会長で恥ずかしそうなそぶりすらしないのもどうかと思ってしまう。


 「今日は先にお礼を言いたくて仕方なく来てやったぞ」


 「そりゃどうも」


 会長が屋上に張り巡らされた金網の前まで歩く。金網を掴んでは数分の沈黙が続く。


 「結果は少しばかり後味の悪いものになったが私の友人を救ってくれてありがとう」


 首を横に振りながら俺はあのひの出来事が一瞬にして脳裏にフラッシュバックする。少しばかり口の中に酸味がする。


 「俺は何もしてませんよ」


 「私にはあの子になにも出来なかった、君が最後に希望を持たせてくれたんだそれだけでも……」


 先輩の名前をTVの報道で死亡した女子生徒の一人として顔写真と実名が報道されて始めて知るなんて本当は先輩の口から聞きたかったのだが。


 「君も大変だろうけどがんばってくれ、以上先輩からの話は終わりサボるなよ」


 生徒会長が屋上から消えた。

 俺の結婚相手だった先輩とは事件後解消される事になった。事件後の俺の状態から先輩や国からそう判断された。俺とはもう無関係の人間に等しいがまだ生徒会という繋がりだけが残っている。


 すべてを投げ出して残りの学生生活を送ろうと俺は思う。

 進級ギリギリで遊びながら俺は孤独と共に半年を過ごす。


 桜の季節と共に俺の止まった歯車はすこしだけ動く音がした。

次回から二年生に突入します。

消化不良気味ですがすべてをリセットする勢いで初めて行こうともいます

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