ねごと ①
「――ねぇねぇ聞いた?」
「聞いた聞いたやばいよね虹嶋先輩もしかしたらこのまま居なくなるよね」
「どうしよう……」
「そっか亜美先輩好きだったもんね」
やる気も起きない俺は保健室に着くなり保健の先生が見慣れた顔を見るなり何も見なかったように顎だけを空いているベッドを指していた。
ありがたく何も考えることなくベッドに横たわって十分程度過ぎたあたりに二人組みの生徒がやってきては誰かの話をしていた。
「久美には分からないだろうけどあの人はとても繊細なの、叶わぬ恋でもあの人だけは」
「悪かったよ、でもさ私は心配なんだよ」
きっとあの人だけれど虹嶋って名前なのか。
まさかこんな場所で聞いてしまうとは思いもしなかったな。
「はいはい話をするなら他所でやってね病人が居るから」
使用しているベッドなど俺だけで、俺事態も仮病なわけでこの保健室のベッドを使う人間なんて俺やサボリ目的が大半、後少数が本当に体調の悪い人ってわけで……そういえば保健室の先生はカウンセリングを放課後にやっていると聞いたな絶対に用が無いだろうがもしものために覚えておくことにする。
「先生またねー」
「もう怪我するなよ」
どうやら体育で怪我したらしい二人が保健室を去ると大きな溜息が聞こえてくる。
先生も大変なんだな。
「あんたもすこししたら出ていきなよ」
「は~い」
正気の失せた生返事で返すと返事は返ってこなかった。
――ってまてまて先輩がいなくなるのか? 俺と同じ問題児ではあるけれど今になって停学だなんてありえないし引越しなのか、でもあの人もお金持ちだよな少なくとも。
親の会社の経営が傾いたとかか。いやいやそんなはずないのかも。
「あれれ? もしかして今日もおサボリさんですかい~?」
顔をあげると噂の先輩が立っていた。笑顔だった。




