風が吹けば
記憶に残ることなく生徒会の合宿は終わりを迎えた。
生徒会メンバーは駅にて解散し残るメンバーは副会長に美兎会長に洲崎に俺の四人だった。
洲崎は車酔いしたせいか顔色が悪かった。洲崎に声をかけようとした時には副会長は洲崎のそばに行きなにやら話しているのを眺めるだけだった。
「赤祢君楽しかったかい?」
「楽しくないですよ、勉強だけの二日間で何も楽しい思い出なんて」
「そうか、ならすこしだけ付き合ってくれないか?」
生徒会長に手を引かれて俺たちは走った。
どれぐらい走ったか分からないが人気のない森の中に入り随分と歩いた気がした。こんな所にも緑の多い場所なんてあるんだと新しい発見をしてすこしだけ得した気分になりながら未だに会長は手を離してはくれなかった。
森を抜けると町を見下ろせる展望台が建っておりこの時間だからだろうか風の運ぶ匂いは緑いっぱいで腹を満たしてくれる。
「いつも何かあると決まって私は家を抜け出してここにくるんだ」
「会長でも悩むんですね」
「私も人間だからな」
風が吹けば会長の長い髪が揺れる。
どこか遠くを見る彼女はなぜだか何を見つめているのか分からなかった。視線は町のほうに向かっているのにきっと俺の思いすごしだとわかっているが彼女の事を未だ分かっていない俺がそんな事を分かるわけも無く……それにフィアンセという肩書きだけで俺たちが仲良くできると俺は思っていなければ結婚をしたいとも思っていないのだ。
「そろそろ帰ろうか体が冷えてしまうからな」
「はい」
彼女の事は分からないけど、前向きに考えるって俺は決めたんだ。だからすこしだけ俺に勇気をください。