桜が咲いて散っていく
中学の入学式は前日に雨が降ったため学校に植えられていた桜の木は散ってしまい満開した桜を拝まず入学してしまった。うちの中学ではこんな都市伝説が流行っていた。
『桜の咲くな中、桜に歓迎される生徒は運命の相手とである』
なんてもんが流行っていたため同級生の半数以上、いや教師ですら残念がっていたほどなのだ。
その当時何を思ったのか格好つけていた俺、嫌でも恥ずかしくなるぜ。
中学はまぁ桜を見ずに入学式を迎えることになったが、今年はどうやら桜が歓迎してくれるみたいだ。
校門を入ると一本道が続く。この学校の特徴でもある桜並木の一本道である。
そこから500m先にある校舎、まぁ在校生からしてみれば長いだるい通学路ってわけだが新入生の俺たちは浮かれてこの長い道を通るわけ。そんでその長い道を抜けると本校舎が見えてくる。
この学校元はお嬢様学校とかで金持ちが沢山いたみたいだが、今のご時勢そういうわけにいかないらしく一般性との受け入れが始まりそのまま共学になったみたいだ。
だからこの学校はとにかく広い敷地を持っていて、それに制服がなんと言っても可愛いのである。
「――やばくない」「見に行こうよ――」
女子生徒がひそひそと話しては並木道を抜けて右側の銅像付近に集まっている。俺もつられてその集団の方に向かう。
「アレって噂の生徒会長さんだよね?」
「入学式初日から大胆だなあの子」
「でもあの子も可愛いよね」
「お似合いだけど、あの会長さんにはね~」
「かわいそ~」
本心なのか上辺だけなのか、こういうときの女子の会話は怖い意外ない。
きっと告白現場であろう先に視線を移すとどうやら動きがあるみたいだ。
「ごめんなさい、私にはフィアンセがいるのあなたの気持ちうれしいけど」
「わ、わかってました、さ、さようなら」
リボンが印象に残る小柄な女の子は泣きながら校舎のほうに向かっていった。声が聞こえなくとも結果は丸分かりである。
「かわいそー――」
ゾロゾロと見物していた生徒は流れるようにして散っていく、ただそこに残されたのは俺と噂の生徒会長さんだけであった。
凛凛しいという言葉が似合う女性だった。
髪は長くて黒く、背が高くて美人で、おまけに制服でもわかるような胸の大きさ、きっとスタイルがいいんだろう。
男らしいとは言いがたいが高貴なものを感じる。男のような男らしさというものなんだろうな彼女に魅入る要因ってのは。
きっと多くの女の子を泣かして来たに違いない。そう思うと罪な女と言ってやりたいな。
ギャルゲ的にはこういうキャラクターて学園の王子様で女の子にモテモテで百合で。いかんいかんこんな事考えてるとこの学校でやっていけない。
俺は足早にその場を去る事にした。
それでも生徒会長さんはどこを見ているのか分からなかったが何かを見つめたまま動くことは無かった。
クラスは3組だった。あの後急いでクラス表を眺めてクラスを確認した後自分のゲタ箱に靴を入れて上履きに履き替えて教室にやってきた。
分かってはいたが男一人見なかったしクラス表にも男の名前は一人としていなかった。
去年までは唯一無二の親友がいたのが懐かしく思うぜホントに。
あくびをしながら窓の外を眺めていた。
桜が綺麗だ。そんな事を思えるようになったのも高校生になったからなのかな。
「――あの、すびません、わだしのせき」
俺は慌てて声の主の方を向くと今朝の告白していた女の子が目を真っ赤にして立っていた。立ち直れずに今度は男にシフトチェンジってか都合よすぎるぜ。
「だから、あの、席」
席? 俺は机の上を確認すると洲崎とマジックで書かれたビニールテープが張られていた。俺の名前じゃないな。
アレレ? 席を間違えたみたいだな。
「すまん、すぐに退く」
慌てて荷物を手に取り椅子から立ち上がると洲崎は首を縦に振り座ると廊下側の席を指差している。
「あの席がどうかしたのか?」
「たぶん、あの、へんだと、思います」
「そ、そうかありがとう」
気を使うというかなんというか、今朝の一件が無かったらなと思ってしまう。
洲崎に指差された方角に向かうと自分の名前の書かれた机を見つけた。
去年は名前が後ろの方が窓側だったんだ、間違えるのも当然って奴だよ、うん、俺は悪くない。
そうこう言っているうちに女教師がやってくると、空気を呼んで同じ学校から入学して友達同士で喋っていた集団が机に座り始めた。こういうとき学校に来たんだなと感じる瞬間の一つだと思う。
「――お前ら講堂にむかうぞいいなー」
「はーい」
女教師が教室を出るとぞろぞろとクラスメイトも後に続いて出て行く。
ただ一人を除いて。
無理も無い今朝からあんな事があったんだそっとしておいてやれともいいたいが、なんで入学式にといいたい俺もいるし、誰も声かけないのはかわいそうではないかと少し同情してしまっている自分であった。
「移動するみたいだけどどうする?」
「お気遣いありがとうございます、私のことはほっといてください」
机に突っ伏したまま少女は動こうとしない。
さっきまで涙も出そうだったのに強がって、可愛くない奴だよ。
「そういえばさ、うちの中学にこんな噂があったんだよ」
なんでこんな事話しているのかよく分からなかった。
一目ぼれとかでもない、恋をしたとかそういう話じゃないし俺にそんないけそうだから行くみたいな恋愛テクニックなど持ち合わせていなかった。
たださっき会話をしたからでもない、でもここで俺は見捨てるのも違うなと思ってしまう。
だからなんで中学の都市伝説の話なんか始めてるんだよ俺。
話を初めてもなお顔を上げない洲崎。
「まぁこんな訳できっと平気さこの学校にもあるんだろ、伝説の木って奴」
どこのギャルゲでステータス上げて女の子振り向かせなきゃいけないんだよって話だが事実なぜかそういう話はこの学校に存在する。
100年前から伝わるこの噂、たしか共学になって3年目とかで広がったらしいな。その直後に秋の......。
「私にも結婚しなければいけない相手がいるんですよ」
この子もそういう。
「それで少しは自分の好きな人とと思ったんですけどね」
洲崎はやっと顔を上げた、涙の後と赤い目を隠そうとせず、俺の言葉に励まされたのか分からないが前向きにはなってくれたようだ。
「行きましょうか」
「そんな顔で平気なのか?」
「平気じゃないですけど、もう平気です」
無邪気な顔を俺に見せると早足で教室を出て行ってしまった。
おれもあんな子と付き合えるならいいんだけどな、俺にも将来選ばれてるし、彼女もその一人だし。
少し悲しい気持ちを胸に抱きながら講堂へと向かった。