番外編 バレンタイン
今年もこの季節が来てしまった。
大地はモテる、お世辞とか比喩表現じゃなくトラック一台分のチョコを貰うのだ。
それに比べて俺は……見た目がカッコいいってのはいいよなモテナイ男がこの日をどれだけ妬んでいたのか今の俺なら分かるぞ。
さてさて俺は現実逃避するためあまり大地と顔を合わせるだけで発狂でもしてしまいそうなので今日はいつもより10分遅く家を出ていた。遅刻ギリギリで投稿でもすれば痛い目をみないですむからな、と俺は内心天才ではないかと自負しながら急いで走っていた。
学校までは少し遠い場所に通学しているため遅く出た事に後悔している、けして電車の時間を考えずに遅刻ギリギリを狙ったんだ、だから俺は。
校門の前で息を切らしていた。
なんとか着いたが遅刻は確定だ、先生の長い話を聞かずに済むのならいいのかもしれないな。
下駄箱で履き替えて二回の教室に向かった。
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授業も終わりお昼休みを告げるチャイムが鳴ると大地が弁当箱を手に持って前の椅子をこちら側に向けて座った。
「なぁなぁ赤祢よぉ、チョコいくつ貰った?」
茶化しているのかなんなのかまじめな顔で大地が聞いてきた。
「俺はもらってないよ今年も」
「そか」と期待でもしていたのかしらないが貰ってないと聞くと途端に興味が無くなり弁当箱の蓋を開けていた。
「お前は相変わらず沢山もらえてそうだな」
「まぁな、イケメンは辛いんだよ」
平気でこういう事を言えるよなこいつ、まぁ慣れて気にしなくなったけどな。
「そういえば今日は生徒会長からチョコ貰ってざわついたよ」
今年の生徒会長は美人、勉強ができる、スポーツも得意ときたもんだから支持が熱いし先生達からも信頼されている、まるでアニメにでも出てくるような才色兼備とはこのことだと思う。
「それって本命?」
大地は首を横に振った。
「その後よ周りの子にも配ってたし、ゲタ箱にも入れてたよ」
見落としていたのか、急いでいて下駄箱の中を見忘れてしまったな。帰りにでも見なくては。
「義理チョコって奴だな、惜しかったな」
「ほんとだよ期待して損したぜ」
「そう言うけどさ、奈那美ちゃん元気なの?」
「今日チョコくれるってさ」
奈那美は大地の唯一の許嫁で、小さい頃からの幼馴染らしい。去年に「なぜ多重婚のこのご時勢に一人だけと結婚するのか、お前ぐらいなら誰とでもたくさんできるだろうに」と聞いたのだが、まじめな顔であいつ意外は考えられない、なんて中学一年生とは思えない顔つきと思想を持っていることに惚れた。
「お前はどうなのよ?」
「俺は――まぁもらえないよ」
「冷めてるよなお前、少しは考えたらどうなのさ」
「今は考えられないかな」
「わからなくもないが全員が全員そういう奴らじゃないんだぜ?」
大地は親友だ、だからこそあまり心配はさせたくなかった。
「すまんな、さて飯食っちまおうぜ」
俺に女性という壁を乗り越えるのだろうかと、中学二年生の俺にしては少し大人びた考えをしたんじゃないかと考えながらもやはり無理なものは無理だと思ってしまう。
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放課後になった。ゲタ箱にはチョコが一つだけ入っていた。
「まぁ今のお前はコレぐらいが丁度いいんだよ、焦らずがんばろうぜ」
少しばかり涙が出そうになったが大地の男気には心の中で泣いておく事にする。
高校生になれば少しばかりモテたりするのかと、少しばかり淡い期待でもしておく事にする。




