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幼児期 第5話 誕生しました

累計PV数が千件を超えました。感謝してもしきれません。こんな未熟な作者が書く作品ですが、これからもどうかよろしくお願いします。

俺は最初夢でも見ているのかと思った。


数週間前に嫁が病気になった。嫁は体が強い方ではなかったが、それでも病気になるほど弱い身体でもなかった。しかし、妊娠していたため体力が落ちており病気になってしまった。


普通の風邪なんかなら魔法や薬ですぐに治るから問題はないはずだった。しかし、今回の病気は薬や魔法でどうにかなるレベルの物ではなかった。


黒点病一度発病したらもう二度と治らない死の病。俺は絶望した。一年前に嫁と結婚して、もうすぐ子供も生まれる予定だった。幸せな生活を送れると思っていたのに、今ではこの有様だ。


嫁が発病してからもう結構な時間が流れた。本当だったらもう子供が生まれてきてもおかしくない頃合いだ。しかし、綺麗だった嫁の肌は黒く染まりもう妻子共に生存は絶望的だった。理解していたが、俺は諦めきれなかった。毎日のように嫁の部屋に訪れていた。


今日も何も変わらないだろうと思って嫁の部屋にいた。しかし変化が起きた。突如嫁が黒い光に覆われたのだ。俺はこれでお終いなのかと涙を流すことしかできなかった。


すると大きな音と共に扉が開かれ、俺の家で執事をしているじいやが訪れた。


「じいや、どうしたらいい。もう、サクヤは助からないのか?」


俺は今までサクヤと過ごしてきた記憶を振り返るとまた涙が出てきた。


本当はもっと一緒に居たかった。二人でこれからのことや子供のことを相談したかった。俺の仕事を支えて欲しかった。


「どうしてサクヤなんだ。もっと一緒にやりたいことがあったんだ、なんで死なないといけないんだよ」


俺が思ったことが僕の意思とは関係なく口からこぼれ続けた。


「だいじょうぶですよ坊ちゃん」


こんな時にじいやがふざけたことを言ってきた。


「なにがだいじょうぶなんだよ。サクヤがもうすぐ死んでしまうんだぞ。なんでそんな平然としてられるんだよ!」


僕が怒鳴るようにそう言うとじいやがサクヤの方を見るように伝えてきた。


「よくお嬢様の方を見てください。あの黒い光は病気なんかではありません。可視化されるほど練度の高い魔力です。しかもあの魔力には回復属性が付加されています」


俺はじいやが何を言っているかわからなかっが、サクヤの姿を見て理解できた。あの黒い光に覆われているサクヤの肌がだんだんと元の肌の色に戻っているのだ。


「じいや、あれは!」


じいやは頷きながら答えた


「誰かがあの魔力を使い黒点病を治しているのでしょう。その証拠にお嬢様には病気の状態異常が消えていますので」


俺はあまりの嬉しさにすぐに部屋を出て家中の人に治ったことを伝えに行こうとした。しかしサクヤに陣痛が始まってしまった。


「坊ちゃん私がすぐに人を連れてきます。あなたはお嬢様の側に居てあげてください」


じいやはそう言うと、俺が見た中で一番のスピードを出して部屋から出て行った。


「サクヤ、がんばれ」


俺は聞こえてないかもしれないがじいやたちが来るまで応援を続けた。


そしてじいやたちが戻ってくると早速出産の準備に取り掛かった。


俺が邪魔にならないように部屋の隅にいたら父さんが話しかけてきた。


「よかったな、ゼノ。サクヤが病気になった時はどうなることかと思ったが、なんとか子供も生まれそうじゃないか」

「本当にそうだよ。俺はサクヤが死ぬんじゃないかって心配で・・・」

「おいおい。泣くなよ。泣くなら子供が生まれた時の嬉し泣きにしとけ」


父さんはそう言うと笑いながら立ち去って行った。


出産が始まってから何時間経っただろうか?

俺は今、時間がとても長く感じられた。


サクヤの病気は治ったがお腹の子はどうかわからないのだ。もしかしたら病気で死んでしまったかもしれない。そう思うと体が震えてくる。


それから少し経つと誰かの泣き声が聞こえた。俺は思わず駆け出して居た。


「俺の子は元気か!」


そう言うと周りの空気が重くなった。一体どうしたのだろうか?


「坊ちゃん、驚かずに聞いてください」


じいやが俺にそう言ってくる。


「確かに子供は生まれました。それも双子です」

「それがどうしたんだ?何か問題が起きたのか?」


じいやはよほど言いにくいことなのか、ためらいながら言った。


「先に生まれたこの方が泣かないのです」

「な・・・それは本当か?」


じいやは小さく頷いた。


俺は生まれた子とサクヤが寝ているベットの方に走った。そこには確かに赤ん坊が二人とサクヤが寝ていた。赤ん坊は一人は黒髪に雪のような白い肌を持った子で、もう一人は金髪に血色のよい肌を持った子だった。両方とも顔は綺麗に整っており、将来がとても楽しみだと思えた。


ただじいやが言うとおり、黒髪の子は泣いていなかった。俺はこの子は抱きかかえて、祈るように言った。


「泣いてくれよ。確かにこの世界は辛いことも多くあるけど、それと同じよう幸せなことも多くあるんだ。だから俺たちの前で泣いてくれよ」


黒髪の子はまるで俺の言葉が届いたかのように、少し震えてから大きな声で泣きはじめた。


黒髪の子はしばらくの間ないていたが、泣き疲れたのかまた眠ってしまった。俺たちはそれを見て安堵の声と涙が漏れた。ただじいやだけは暗い表情をしていた。


そして俺は黒髪の子をベットに戻す時に気がついた。この子は女の子のような整った顔をしているが、男の子だったのだ。


「お前は男だったのか。生まれて来る性別を間違えただろ」


俺は笑いながら、その子をベットに戻した。

ただ周りにいた人たちは女の子だとばかり思っていたのか、呆然と立ち尽くしていた。


俺が部屋から出るとそこにはじいやが立っていた。


「坊ちゃん大切な話があります」


と言うと俺はじいやに客間に連れて行かれた。


「ここなら誰にも聞かれないでしょう」

「じいや大切な話っていうのはなんのことなんだ」


俺はじいやに早く本題に入るように促した。


「大切な話とはあの黒髪の子の話です。坊ちゃんは私が鑑定スキルを持ってることを知っていますよね」

「鑑定の結果になんか問題でもあったのか?」


じいやの様子から、問題があったということまではわかるのだが、どういった問題なのかまではわからなかった。


「私と坊ちゃんが見た黒い魔力はあの黒髪の子の物だったのです」


俺はその話を聞いて驚愕した。あんな小さい子があの魔力の使い手だとは信じられなかったからだ。


「それとあの黒い魔力は病気を治したわけではなかったようです」


俺は気づいたら怒鳴っていた。


「ならまた、サクヤが黒点病になる可能性があるということか!」


しかしじいやは首を振った。


「いえ、病気になることはおそらくないでしょう」


次は怒鳴ることはなかったが、疑問が発生した。


「じゃあ、病気が治ったってことじゃないのか?」


しかしじいやはまた首を振った。


「治ったわけではないみたいです。もう一人の赤ん坊とお嬢様の黒点病の原因となる汚染された魔力を、黒髪の子が自分の魔力を使って自分の体内に吸収したみたいなんです」


この話を聞いて俺は唖然とした。あの黒髪の子は、無意識にやったにしろ、意識してやったにしろ、今まで誰にも治せなかった病気をたった一人で治してしまったのだ。


「ですがその結果、黒髪の子にも被害が出てしまったみたいなんです。あの子は大人でも死ぬような毒に近い物を体内にに入れたわけですから死ななかった方が不思議なんです」


だからあの子は生まれた時に泣いていなかったのか。毒のような物を体内に入れてすぐに出産されたわけだから、意識がなくてもおかしくはなかったわけだ。俺はあの子に感謝してもしきれないほどの恩があったらしい。


「ところでじいや、あの子は体内に毒みたいな物を入れたわけだが後遺症はないのか?」


じいやは困った表情をしていた。


「あるんですよ、後遺症」


じいやの答えは分かり切っていた物だった。

大人ですら死ぬような毒みたいな物を体内に入れたわけだから無事で済むわけがない。ただ今は、あの子が生きていることに感謝したい。


だが、あの子がどんな状態にあるのかを聞く義務が俺にはある気がした。


「あの子の後遺症はなんだったんだ?」

「肉体の成長不全です。多分体は140センチも越えないでしょう。それと色素の減少です。これはあの肌の色を見ればわかると思いますが、肌が白くなっているわけです」

「それは男としては辛いな」

「生きていただけでも神に感謝ですよ」


俺は話が終わったと思い部屋から出ようとするとじいやに止められた。


「坊ちゃん彼が黒点病を治したことを人に伝えてはいけませんよ」

「なぜだ?」


俺はあの病気を治せる方法があるなら伝えるべきだと思っていたので、じいやの話に疑問を感じた。


「当たり前のことですよ。今あの病気を治せるのは、あの子だけです。それにたった二人を治しただけで、とても強い後遺症を受けました。

もしあの子が治せるなんて噂が広まったらどんどん人が来ますよ。その度にあの子が治していたらすぐにあの子は死んでしまいます。

あの子は私たちの家族ですよ。守らなくてどうするんですか。」


そうじいやに言われて、俺はあの子だけではなく俺の家族全員を守ることを再度決意した。





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