模擬戦
「見つかるといい…わね。レヒト。お父様も…その剣も」
「あぁ。親父は、デュランダルって呼んでたっけ」
そんな話をしながら歩いている時。魔物に包囲されている事に気付いた。レヒトは姫を自分の背中側に回し、剣を構える。
「コレット…早速で悪いが」
「うん…。分かってるっ!」
次の隣町は目前。だがこの世界では危険と常に隣り合わせだ。レヒトは手に短剣を出現させる。コレットも同じくして、魔力を形にしていく。後ろにいる姫を守りながら、2人は次々と魔物を倒していった。
「はぁ…っ…はぁっ…や、やっと倒せたぁ〜…っ」
地面へ倒れるコレット。レヒトは息を乱す事も無く、余裕そうに立っている。少々呆れつつ、言った。
「お前なぁ…戦った事ないなら、素直にそう言えよ。あれくらいの魔物なら俺が1人で倒せたのに…」
「だ、だってぇ…いけるかなぁ!って思っただもん〜」
地面に寝そべっているコレットに、エルシアはそっと手を差し伸べる。
「私のこと、守ってくれてありがとう…」
コレットは、首をブンブンと振りながら勢いよく立ち上がる。その表情は、嬉しそうだ。
「どういたしまして!これくらいの戦い、朝飯前だよっ!それから…」
コレットは立ち上がり、レヒトの方を向いた。その目はどこか挑戦的で、彼女の周りに魔力が再び集まっていくのが分かる。
「勝負だよ、レヒトッ!」
「は、はぁ?!」
突然の勝負宣言に、俺は驚いた。魔物との戦いですらおぼつかないコレットが、一応魔導師として鍛錬してきた俺に対して勝負を挑むのは気の毒だけど無理だと思ったからだ。
「あんたはずっとバカのままだから…あたしが試すの。"今度はちゃんとやれる"のか」
「い、意味が分からないけど…」
「バカレヒトが!今度はちゃんとっ!あんたのお姫さまを守れるかって聞いてるの!やるの?やらないの?!」
「…あの、二人とも………」
「なっ…!そこまで言うなら…やってやるッ!」
コレットがあまりに真剣そうで…
いや、「姫様を守れるか」って言葉にムキになって、俺はコレットからの挑戦を受けた。
♦︎♦︎♦︎
「やっぱり、ちゃんと強いんじゃん」
「当たり前だろ…俺だって、騎士だからな」
あの後、お互いの魔力が底を尽きるまで俺たちはやりやった。一番驚いたのは魔物にすら手こずっていたコレットが嘘のように感じるほど、彼女の戦いには隙が無く、攻めにくいものだったことだ。といっても、俺だって負けるわけにはいかない。俺が剣をコレットの喉元につけた所で姫が乱入してきて、模擬戦?は終わった。
「よかった。これなら、今度は救えそうだよ」
「…?」
「…そういえば、俺たち朝飯まだだったな」
コレットは随分満足したようだった。俺はお腹が空いて、飯にする事を切り出す。
「あ…見えたよ…あそこ、商業都市バイガン…。バイガンは、デリオルの中で2番目に大きな都市」
エルシアの指差す先、機械仕掛けの街が見える。立ちのぼる煙と、その煙の匂いが、ここまで漂って来ている。
「姫。しばらく俺の用事に付き合ってもらえるか?」
「うん…私、バイガンも行った事無いの。行ってみたい」
「そ〜の〜前に!朝ご飯だねっ!」
3人は機械の街を目指して歩いてゆく。その背後に、フードを被った謎の人物に尾行されていた。小さな体は、力なくその足を進めた。傷んだ黒く薄い生地の下から、傷だらけの足がここまでの惨状を思い浮かべさせる。
ハァハァと肩で呼吸し、フードの隙間からは光に反射して夜空の如く輝く髪を覗かせた。
謎の人物「誰も…いない。
誰も…覚えてない。…殺されたの…」