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追憶のルヴニール  作者: 水景莉華
第1章 〜カオスゲート編〜
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レヒトの過去

俺は里子だった。両親の顔も知らない。だけど物心ついた頃には、グレイヴっていう、自分の事を英雄って呼ぶふざけた人の元にいた。誰もいない、辺境の森の奥で2人ひっそりと静かに暮らしながら。

俺自身、その人が父親みたいなもんだった。


「お前には俺は越えられないさ」


男なら、誰でも父の背中って大きくあって越えたい壁なんだと思う。


「うるさい!僕だって本気を出せば親父くらい簡単に倒せるッ!」


その時は、なんで親父が自分の事を英雄と呼ぶのかが気になっていた。何千年も前の戦争なのに、〈神都戦争〉に参加していた、なんて馬鹿げた事を言っていた。家ではだらけているし、何か特別な事をしている所なんか一度も見たことがなかった。

俺は、親父が剣士だったなんて全く信じてなかった。親父が剣を持っている所なんて見た事すら無かったからだ。


「やれるもんならやってみやがれってんだッ!!」


毎日のように殴り合いを挑んでは、毎日のようにボコボコにされた。腹が立ったし、嫌いだった。それでも、きっとそういう日々を幸せっていうんだろうなって、後になって思った。


「親父!僕にもお前の剣を貸しやがれッ!」


「『おとうさま』に向かってお前とは何だお前とはッ! ?いい度胸してるじゃねえか!」


今でも時々夢に見る。あの日の事。あんなことしなきゃよかったって、俺ずっと泣いてた気がする。あの時何が起こったのかは今でもよく分からない。だけど確かだったのは、たった一人俺を想っててくれた人の事が、全部後悔と思い出に変わったって事だった。


「お父さんッ!僕…ぼくは…っ」


「もう泣くな。俺がなんとかしてやっからさ。でも、もし俺かここへ帰らなかった時は…」


「嫌だッ!お父さんがいなくなったら!…僕…ひとりだ…」


父と共に名を馳せた魔剣。俺はそれに触れてしまった。まばゆい光に包まれたかと思えば、立っていられなくなる程の…幼い子どもにでも分かる強い魔力と邪気を感じた。

真っ黒の炎に、心まで持っていかれそうになる。辺りは、地獄絵と化していた。

大丈夫。大丈夫。父はそう何度も俺に言い聞かせてくれた。


「あいつの封印を、変身(トランス)で解きやがったか…ったく、面倒な息子を持ったもんだぜ」


「父さんっ…!」


「生きろよ」


吹き荒れる風、目を晦ませる程の光。それに立ち向かう父の背中。

そこにいたのは、英雄。

そして…父は、戻らなかった。


……。

………………。


『強さは、誰かに見せるもんじゃねぇ。

誰かに向けて使うもんでもねぇ。

いつか、お前にも分かる時が来るだろう。

それに気付いた時、剣を振るえ。大切なものを、守ってみせろ。


お前は、きっと強くなれる』


夢のような場所、光の中で聞いた親父の最期の言葉だった。

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