初めまして、久しぶり
程なくして、カルムという町に到着した。この町の人々は、何者かに城が襲われたという事を誰も知らず、平和で賑やかないつも通りの1日を送っていた。
レヒトが倒れた少女を慌てて宿屋に連れ込んだ為、宿代もとられる事なく部屋に居座る結果となった。
肩までのふわふわした髪を持つ少女はー…
いや、少女と呼ぶには少し歳が合わないだろうか。彼女は、宿屋に着いて程なくして目を覚ました。
「う…んん……」
「目を覚ましたな。よかった」
「あ、れ…?レヒト?エルちゃん…?
あたし、もう飛んで…」
寝ぼけているのか、頭でも強く打ったのか。
彼女とレヒト、エルシアは今日が初対面だ。まるで知り合いであるかのような口ぶりの彼女を、レヒトはかなり心配そうに気遣っていた。
話を聞くと何日も何も食べずにいたそうで、彼女はどうやら世界を旅する冒険家らしい。
「助けてくれて、ありがとう!エルちゃ…
う、ううん、エルミナ姫様!」
「うん……、?」
「ちょ、あの…ここまで運んだの俺なんですけど……」
「レヒトもありがとうね。
あたし、コレットです!コレット・エンディアル。お礼がしたいから、後で私の所へ来てね!町外れの廃屋にいるから。それから…」
コレットは、エルシアを強く抱きしめた。
そして囁くような声で言う。
「…久しぶり」
「え……?」
「じゃ、待ってるねッ!」
そう言い残し、コレットと名乗った彼女は明るい笑顔を輝かせながら颯爽と手を振って宿を出て行った。
(あいつは、何を隠したー…)
レヒトが彼女を心配した訳は、決して謎の言動からだけでは無かった。
彼女を抱きかかえた時に、目に涙が浮かんでいたことを知っていたからだった。
その後、勢いに流された2人は、コレットのいう廃屋へ行ってみた。そこには無造作に、紙や布や…色々なモノが散らばっている。
「姫様!こんなに早く来てくれるなんて思ってなかったよ」
先ほどまで倒れていたとは思えない程に元気な彼女は、レヒト達を笑顔で迎えた。
エルシアは、控えめに口を開く。
「…どうして、私の事を知っていたの?私は、名前は公にされているけれど、顔は誰も知らないはず…それに、さっき…」
「ゔっ…そ、それは…ほ、ほら!お隣さんがそう呼んでたから!それと、抱きしめちゃってごめんねっ!あたしの知り合いに、すっごく似てたから」
お隣さんって俺の事かよ、と思いつつレヒトは口を開いた。
「それで、俺達に何の用だ?」
「助けてくれたお礼に…旅用の服を作ってあげようと思ってね!」
「服…か。いいかもしれないな。
姫、そのままじゃ動きにくそうだし」
「服…私に?」
「うん!あ、あとついでにバカレヒトのもね!」
「なっ!だ、誰がバカなんだよッ!」
服を新調するので明日また来て欲しいと言われた2人は、自然と協調しながらも活気の溢れる、風の吹き抜ける高台の街カルムを歩く事にした。
エルシアがふと何かを見つけたようで、足を止める。
「どうしたんだ?」
「子供達…勉強してる。みんなで、一緒に…」
エルシアの視線の先には、恐らく出張で来ているであろう教師が街の子供達に魔術学を教える姿があった。