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マイアの記憶

作者: 一葦ひとせ

これは絶対に親指姫のパロなんかではない。断じて。親指姫の世界観ぶち壊しです。登場人物借りただけ………。

そんなのでも全然問題ないぜ! って方、のみ、下にお進みください。


2015.1.15 修正

2015.3.23 ルピ振りや重複箇所を訂正

 あなたはもう、私の手の届かないところにいるから。








 今日は花の国の王子お披露目パーティー。正式に王位継承権を渡された王子様を公の場に出し、その存在を国中に広めるためのパーティーだ。


 この国の王子様として壇上にあがり、国民みんなから祝福されている彼に、私はもう近付くことはできない。もう触れることはできない。会うことも、話すことさえも。

 それがちょっと、寂しくて。








 私が王子様と初めて会ったのは、六歳くらいのときだった。

 当時はもちろん、王子様というのは誰なのか知らなくて。その王子様が城から抜け出して“行方不明の王子”として捜索されていたことも知らなくて。ただただ、ヒキガエルに襲われそうになっている私を助けてくれたのは彼で、感謝すべき人。命の恩人。それだけがその時の私にとっての彼だった。

 さよならって言って別れて、家に帰って数年たって。ものすごく格好よかったな、とか、またお話したいな、会えたらいいな、なんて思い始めたのは十歳くらいからだった。今だからこそ言えることだけれど、何て遅い恋の自覚だったんだろうと思う。その時に思い出したことも、顔を鮮明に覚えていた事にも驚きだけど。

 “自覚”というものが何でもかんでも遅い自分に呆れて、乾いた笑いが零れた。

 幼い頃だったなら、何もかも許されたのに。王子様と会うことも、遊ぶことも、触れ合うことも。

 告白することでさえ、許されていた。

 あの幼い頃に、もう戻ることはできない。

 けれど、願ってしまう。

 王子様が、ただの一回だけだった王城離れのときに会った私を、覚えてくれている、なんて。

 彼にとっての私は“いつの日か会った人”の一人でしかないに決まっているのに。

 でも、せめて、想うことだけは許していただけますか。

 叶うことのない夢を願ってしまうなら、いっそのこと。

 彼と出会ったことも、思い出も、何もかも忘れてしまえたら楽になれるのに。

 どうして、私を掴んで放さないの。



 懐かしかったあの頃まで、時間が、巻き戻ってくれればいいのに。








 そろそろ夜も更け、時間は深夜二十三時。闇も深くなってきた。

 酔っているのか、まだ成人していないというのに、母はやたらと私にお酒を飲ませようとしてくる。果汁を炭酸とお酒で薄めた、いわばカクテルのようなものだから一杯くらい飲んでも酔わないとは思うけど、流石にそれはまずい。下手したらお酒に飲まれて、何をしでかすかわからない。でもそろそろ母が無理矢理飲ませようとしてくる可能性があるのも事実。一杯もらっておいた方がいいのかな。

 王子様は、(つや)っぽい同年代の女の子たちにこういうのをどんどん飲まされてるんだよね。

 私の目線の先に映るのは、少し顔が赤みがかってきている王子様と、彼を取り囲むようにして立っている私と同年代の女の子たち。まだ十五歳なのにみんな(あで)やかで豊満な体をしていて、(きらび)やかなドレスを身に纏い、顔も化粧でバッチリ決めている。明らかに『化粧しています』っていう感じで、ナチュラルメイクに、落ち着いた薄いピンク色のドレスを身に着けている私とは正反対だ。

 王子様の嫌いな女の子の集まりだな、あれ。

 派手な装いをするような子たちは、王子様が最も苦手なタイプの子だ。どちらかというと落ち着いた質素な服の方が良いらしい。

 まあ、だからといってあの輪の中に入っていくつもりなんてこれっぽっちもないんだけど。

 口許に当てられたグラスの縁をそっと押さえて、一言カクテルありがとう、と伝えた後に母から離れた。ふと斜め後方からねっとりと纏わりつくような視線を感じたが、振り向いてはいけない、と自分に釘を刺し、比較的ヒールの音を鳴らさないように、でも足早に騒がしくなってきていたパーティー会場を離れた。


 手に持ったグラスの中のオレンジ色の液面が、最後の段を降りきった瞬間、静かにちゃぷん、と揺れた。








 王子様が、いない。

 時間をかけて水と交互にカクテルを飲んでお酒を薄めつつ消化し、パーティー会場に戻ってきてみると、そこには王子様の姿はどこにもなかった。

 あの派手な女の子たちは皆空のグラス片手に走り回っていて、時折、見付かった!? いえ、どこにも……! という会話が聞こえてくる。

 王子様が、いなくなった? ……違う、逃げ出したのか。

 あれほど大量のお酒を飲まされて、すぐ側で小一時間キツい香水の匂いを嗅がされ続ければ、誰だって気分が悪くなって逃げ出したくなるというものだろう。

 ………お馬鹿な子たち。

 何もできない私が、言えたことではないのだけれど。



 お酒の入っていた空のグラスを使用済みグラスのお盆の上に重ね置き、我関さずとばかりに、お花の模様がところどころ入った白いテーブルクロスを被せられたテーブルの上のお皿を一枚手に取った私は半ば無意識に、ゆらゆらと風に揺られて踊る、月を水面に映し出す夜用水中日時計(ひどけい)――いや、水中月時計(つきどけい)というべきか――の方に、ピンクのチューリップ色の双眸(そうぼう)を向けた。



 ………もし、王子様を見つけることができたら、彼と会うことができるのかな。

 ………もし、会うことができたのなら、彼と少しでも話すことが、できるのかな。



 あの服の裾に、手に、触れることはできるのかな。




 普通じゃあ絶対に許されない行為。

 もしそんなことをしたら、私は束縛され、場合によっては二度と太陽の下を歩くことはできないだろう。

 ………でも、それでも。




 王子様、私はあなたに会いたいです。





 装ったばかりのフランボワーズのケーキの頂である木苺から、ベリーソースがポタリと垂れた。








 一歩足を進める度に、サクリ、サクリと草を踏みしめる音が私一人しかいない辺りに響きわたる。

 お前はひとりぼっちなんだと、待っている人なんて居ないのだと言われているようで、(むな)しくなった。

 ずっと考え事をしながら下を向いて歩いていたから、涙が滲んでいることに全く気がつかなかった。ほら、ね。自覚が遅い。

 目はいじってはいないけれど、念のため気を付けながら指の先だけで流れ出る涙を拭う。

 ………ああ、私ってこんなに醜い人間だったんだなぁ………。

 どこからか、ブゥーン、ブゥーンという羽音が、空気を震わせ、嗚咽を堪えている私の耳の中に届いてきた。

 どう聞いても虫の羽音にしか思えないその音の方に目線を合わせると、そこにいたのはコガネムシだった。

 コガネムシに触れられる事によってドレスが汚れることを危惧した私は、その場から逃げようとしたが、コガネムシの行動に驚き、足をとめてしまった。

 コガネムシは私の体の周りを二回近く回って、こっちだよ、とでも言うかのように私の前で上下に飛んだ。

 あまりにもおかしなその行為に、生まれもった性格というべきか、つい興味をもってしまった私は、ふらふらとコガネムシの後を追うように足を動かし始めた。

 私を先導するコガネムシの飛ぶ速度は徐々に徐々に早くなっていき、コガネムシが止まった頃には息も絶え絶えになっていた。

 先程まで(せわ)しく羽を動かしていたコガネムシが止まったのは、綺麗な水が流れる水路の側の木だった。水路は月時計が沈む水溜まりと繋がっており、月時計の横から湧き出る水は、水溜まりから溢れ、まるで滝のようにザバザバと水路に注いでいた。

 月の光が反射して、水そのものが発光しているのではないかと思わせるほど水面がキラキラと輝く幻想的な光景に、私はしばらくの間目を奪われた。

 私を現実へと引き戻したのはぴちゃん、という水がはねた音。

 小さな小さな魚たちが水を纏いながら、何度も繰り返し水面から顔を出し、叩き、いくつもの波紋を作り出していた。








 気付いたら水路の終着点にきていた。

 今日は不思議なことばかりだ。まるで、夢でも見ているかのよう。もしかしたら、酔って変な夢を見ているのかもしれない。

 だって、コガネムシに連れられて、魚に案内されて、鳥を助けて、ノネズミに森を誘導してもらって、なんてこんなこと、実際に起きるわけがない。

 私はきっと、夢でも見ているんだ。

 歩き回って靴擦れした、血が滲む足から伝わる痛さがこれは夢じゃない、と私に教えてくる。

 私何でこんなことしてるんだろう。

 王子様を探すはずだったのに。

 はあ、とひとつ溜め息を零し、もう戻ろうかと思っていると、視界の端にチラリと映るものがあった。

 木の根元のところに足が見える。まさかと思って身体を大きく傾けて覗きこんでみると、果たしてそこには、私がずっと探し続けていた王子様の姿があった。

 嬉しさでついさらに身を乗り出してバランスを崩し、足元の草がガサリ、と大きな音をたてた。

 草音で王子様も私の存在に気付いたらしく、ゆっくりと頭を傾け、私と目があった。

 今の今まで暗闇を入れていた目は驚きに大きく見開かれ、その瞳には確かに私の顔が、包まれているかのように映っていた。

 王子様が呆然と口を動かす。

 私の聞き間違いではなければ、彼は今、六歳の時の……といった。

 堪えきれなくなって、私は水路に架かっている石橋を渡って座り込んでいる彼の胸の中に飛び込んだ。

 顔を合わせて、どちらからともなく唇を重ねる。最初は軽く触れあう程度に。次に食むように唇を唇で塞がれ、最後に深く口付け合った。

 初めてのキスは、甘くて苦い、大人のお酒の味がした。

最後完結早すぎね? 雑じゃね? ←はい、もう力尽きました。小説データが一度消えたせいです。文句はPCに。

内容親指姫じゃないやん! ←私は忠告しましたよ! ええ、しっかりと! 何なら一番上へ確かめにいってください。

ちなみに、題名のマイアというのは親指姫の名前ですね。アメリカの方ではもうひとつの違う名前が多いそうですが、こちらにしました。

二人のその後ですが、多分結婚します。多分です。多分。

あと実は、今作に会話文(カギカッコ)は一切出てきていません。お気づきになられたでしょうか?

これじゃ何だか私の方でも後味悪いというか、満足してないのでもうひとつのパロ書くかもしれない……今度こそパロだ、うん。

長くなりますが、本当はこんな話じゃありませんでした。でも内容が……その、ものすごく重い、シリアス&ミステリー風味大の問題作になってしまい。書き直したら話が繋がらず。最終的にこうなりました。お粗末でした!


では、このような素敵な企画を用意してくださった花ゆきさま、活動報告にてお知らせをしてくださったナツさま、ありがとうございました! とても楽しかったです。



2014.7.13

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公である私視点で語れ、今は身分、立場を違えてしまった王子様への想いや葛藤が、絵本や童話のような雰囲気と少し大人っぽい雰囲気とを行き来しながら書かれているように感じました。 個人的には …
[一言] 最後の方のこの一文 「私の見間違いではなければ、彼は今、六歳の時の……といった。」 聞き間違いのほうが適切なのではないでしょうか?
[一言] 幻想的な雰囲気の中、ひたすらマイアの一人称で進むお話、素敵でしたよ~!! 月時計、煌めく水面、息も絶え絶えなコガネムシ。 すごく好きです(*´ω`*) 6歳の頃の出会いの場面、そして王子様…
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