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2.勇者と魔王

 勇者は事前に手に入れていた情報を頼りに魔王城の廊下を進む。


(……あれか)


 角を曲がった先に見えたのは鋼鉄製の大きな両扉。

 情報が正しければあの扉をくぐった先に玉座の間があるはずだ。


(……ようやく、終われるな)


 詰めていた息を吐き出し、勇者は躊躇い無く扉に近付く。

 高さ十メートルはあるであろう扉に手を当て、押してみる。


 だが全く動く気配がない。

 大きいだけでなく厚みもかなりあるようだ。


「……」


 勇者は無言で剣を構えると扉を斬り裂く。その時ガラスの砕ける音がしたので部屋を守る結界も一緒に砕いたのだろう。


 今更扉を壊すことへの躊躇いはない。すでに半壊状態である魔王城を気にかける必要はない。


 開けた穴に入ると開けた空間に出た。


(……ここが玉座の間か?)


 目だけで辺りを確認し、足が沈み込むほど柔らかい紅いカーペットに沿って奥へと歩いていく。


 荘厳とした調度品の数々が部屋のあちこちに並べられている。


 絢爛な作りの玉座に近付くとどこからともなく声が響く。


「随分と激しいノックじゃのう。それがヒト流の礼儀なのかえ?」


 古めかしい話し方をした鈴の鳴るような澄んだ声である。

 先ほどまで空席だった玉座にいつの間にか誰かが座っている。


(……女の、子?)


 暗闇に目を凝らして見ると偉そうにふんぞり返った少女がこちらを見下ろしている。


 少女は唯我独尊の姿勢を崩さないまま勇者に言葉をぶつける。


「ヒトの救世主よ我が城にようこそいらしたのう。何のもてなしも出来ぬがゆっくりしていくがよい」


 ふはははははっ!と高笑いをあげる少女。彼女の言動から彼女が魔王であることは容易に想像出来るが俄には信じられない。


(……こんな十六、七歳の女の子が魔王?)


 しかも見た目はヒトとほとんど同じに見える。


(幻覚魔法を見せられているのか?いや俺にはその手の魔法は効かないはず。なら肉体自体を変質させているのか?)


 勇者が考えを巡らせる中少女は尊大な口調で口上をたれている。


「わらわのは配下が世話になったようじゃな。ああ、勘違いしないで欲しいが仇討ちを考えているわけではないぞ。我ら魔族は自らの本能を優先するからの。あやつが自ら望んだ事じゃからわらわが口出しする事ではないからの」


「…………」


(よく喋るな、この子)


 こちらが聞いていないのに楽しそうに喋り続けている。

 勇者としては聞きたいことだけ聞ければいいのでそれ以外の話は聞き流す。


「……おい、ちょっといいか?」


「うむ、なんじゃ?」


「おま、……君は魔王なのか?」


「そうじゃよ」


 少女があっさりと答える。


「ほれ、証拠じゃ」


 少女が右手の甲をこちらに向けて掲げる。

 右手の甲には紋章が刻まれている。


「代々魔の王家に受け継がれてきたこの紋章。これが妾が魔王である証しじゃ!そなたたち人間もこれくらいの調査はしてあるじゃろう?」


 少女が冷笑を浮かべる。

 確かに少女の言うとおり彼女の手に刻まれた紋章は勇者が知っている情報と一致している。


 彼女は正真正銘魔王である。


「……そうか」


 勇者はそれだけ言うと鞘から剣を抜き構える。


「魔王、早く殺し合おう」


臨戦態勢に入る勇者を見ながら魔王が呆れたように言う。


「せっかちじゃのう。何を焦っておるのじゃ?」


 とても勇者の発言とは思えんのう。と魔王は苦笑する。


「……お前を、」


「うん?」


「お前を殺せば全て終わる」


「…………」


 勇者は無表情で剣を魔王に向ける。

 切っ先を向けられた魔王は動じることなく勇者の瞳をただ見つめる。


 やがてぽつりと呟く。


「……そなたは空っぽじゃな」


「…………」


「魔族に対する怒りにかられるでもなく、魔王討伐の使命に燃えている訳でもない。何の感情も浮かんでないのう」


 真剣な眼差しで勇者を捉えながら、


「そなたはどうして戦う?」


「…………」


 勇者は魔王の言葉を聞いて内心首を傾げる。


(……言っている意味が分からない)


 人間と魔族が争うのは珍しい事ではない。そこに理由はなく、当たり前の事として存在する。

 だから勇者には魔王がどうしてそんなことを聞いてくるのか理解できないでいる。


 勇者が答えられずに黙っていると、答えるつもりがないと勘違いしたのか魔王が、


「わらわには関係ないがの。それよりも――」


 魔王少女はニタリと口の端を上げる。


「――勇者殿。取引をしないか?」


 その表情はまさしく魔王そのものであった。

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