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午後5時。宮本栞と式部香子の2人は狙撃事件が発生した新宿の歩道を歩いていた。現在警察官はこの街をパトロールしている。マスコミ関係者はこの街に集まり、報道を開始していた。
しばらく歩いていると式部香子は突然立ち止まった。
「ここだよ。ニュース番組にあの看板が映っていたから間違いない。それにあそこに防犯カメラが設置されているでしょう。あのカメラに高明さんが狙撃される瞬間が映っていた」
式部香子は右側に設置してある防犯カメラとドラックストアの看板を指差す。
「確かあなたは完全記憶能力を持っていましたよね」
「そうだよ。教科書を一回読んだだけで内容を理解できるから、テスト勉強に困ったことがないんだよ」
「それでその防犯カメラの映像にはどのような映像が映っていましたか」
「高明さんが仰向けに倒れる瞬間。銃弾みたいな奴が腹部を撃ちぬいていたよ」
その話を聞き宮本栞は辺りを見渡す。そして彼女は頬を緩ませ、北東に建っているビルを指差す。
「犯人はあのビルで狙撃したようですね。あの防犯カメラは北の位置に設置されています。その防犯カメラに狙撃の瞬間が映っていたとしたら、大体の銃弾の発射角度を計算することも可能です。高明さんが腹部を撃たれたとしたら犯人と高明さんは正反対の位置にいたことになります。高明さんは南にいたから、犯人は北にいることになります。そしてこの辺りのビルを見渡した結果、北側で狙撃に適している場所。すなわちターゲットの位置を見渡せる場所は今指差しているビルということです」
自信満々に推理を話す宮本栞の顔を見て式部香子は首を傾げる。
「どうしてしおりはそんなに狙撃について詳しいの」
「狙撃について詳しい知りあいがいますから。その人から教えてもらった知識を使用しただけですよ」
宮本栞は狙撃手が狙撃場所に選んだビルの屋上を見つめながら考え込む。
(400ヤード先。犯人が工作員Sであるという事実の信ぴょう性は高そうですね)
「それならそのビルに行ってみようよ。もしかしたら犯人に繋がる遺留品が落ちているかもしれないでしょう」
この式部香子の発言を聞き宮本栞は呆れた。
「それは止めた方がいいでしょう。警察は既にこの推理に辿り着いているはず。つまりあのビルの周りには多数の警察関係者がいる。その状況であのビルに近づけば犯人として疑われます。それよりも事件の関係者に話を聞きに行った方がいいと思いますが」
「そうだね。この現場から一番近いのは京宮蛍さんの自宅だけど、その前に宿泊先を考えないといけないよね。明日東京に用があるのに、一々横浜に帰るのも面倒くさいし」
式部香子は宮本栞の顔を見つめる。
「東京在住の知り合いを紹介してほしいということでしょうか」
「そうだよ。知り合いが多いしおりなら東京在住の知り合いが一人くらいいるでしょ」
「分かりました。しかし移動時間を考慮すると京宮さんの所に話を聞きに行く時間がなくなりますが、よろしいですか」
「構わないよ。京宮さんには明日のクルーズパーティーで話を聞けばいいから」
宮本栞はため息を吐き、江角千穂に電話する。
「江角さんですか。宮本です。急ですみませんが今日あなたの家に泊まりたいのですが。人数は2人です」
『分かりました。それではお待ちしています』
宮本栞は電話を切る。
「宿泊先が決まりました。江角千穂さんの所です」
報告が終わると2人は江角千穂の自宅に向かう。