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食事が終わり、大学に戻る道中で宮本栞は式部香子に確認する。
「ところで、あなたが言う容疑者というのは彼と仲がいい友人という解釈でよろしいですか」
「そうだよ。もっと詳しく言えば藤原さんの幼馴染たち」
「それにあなたのお父さんは含まれていますか」
「それはないよ。だってお父さんはブラジルで仕事しているから」
「ただ警察に捜査協力すると言っても、その情報が既に警察が掴んでいた物だとしたら無効となります。あなたには警視庁の刑事に知り合いがいるのですか」
「いないよ。いたらその刑事さんに犯人逮捕を依頼するから。しおりにはいないの。結構知り合いが多そうなイメージだけど」
「知り合いの警察関係者はいますが、使えるかどうかは微妙ですね。上手く仲間に引き込むことができればいいのですが。仲間の刑事については後で連絡してみるから、今日の午後4時から捜査開始ということでいいですよね。移動手段としてハーレーに乗せてあげます」
「分かった。それでさっき言ったクルーズパーティーにしおりも出席してほしいんだけどいいよね」
「構いません」
宮本栞は大学に到着すると、すぐにラグエルに電話した。
「もしもし。少し頼みがあるのですが」
『ウリエル。頼みというのは何ですか』
「偵察部隊のメンバーの誰かを警視庁に潜入捜査させたいと思います」
『例の狙撃事件絡みですか。分かりました。といいたい所ですが、短時間で身分を偽装して潜入捜査をすることは不可能です。最低でも二日はかかりますから。でも盗聴だけなら何とかなるかもしれません。須田哲夫として潜入捜査した時に仕入れたネタを使えばいいですよ。その仕事はハニエルに任せて、サマエルが盗聴電波を拾えば捜査情報は聞き放題でしょう。アズラエル本人に聞くという方法もありますがどうしますか。見えざるスパイを使いますか』
「使いますね」
『分かりました。それではハニエルに下準備を依頼します』
電話は切れた。
「ところで須田哲夫として潜入捜査した時に仕入れたネタというのは何でしょうか」
宮本栞が小声で独り言のように呟いた頃ハニエルこと江角千穂はラグエルからメールを受信した。そのメールには一人の女性警察官の写真が貼られている。
その写真を確認したハニエルは仲間であるサラフィエルに電話する。
「サラフィエル。あの時計はどこにありますか」
『あれならアジトにあるわ。今アジトにおるから届よか』
「ありがとうございます。私がいるのは東京駅です」
『分かったわ』
江角千穂は電話を切ると、女子トイレに向かった。そのトイレ内で彼女は簡単な変装をする。
それから15分後サラフィエルこと東條清太郎は東京駅に到着した。彼はアタッシュケースを手にしている。キョロキョロと辺りを見渡すと、黒いローブ姿の女が彼に声を掛けた。
「東條さん。私です」
「江角はんか。シノかと思ったわ」
東條清太郎はその不審な姿に驚く。彼は不審な服装に身を包んだ江角千穂の姿を見たことがなかった。
「なんやねん。その服装」
「占い師だそうです。これから見えざるスパイ作戦をするそうですが、一緒に来ますか」
「やめとくわ。シノと仲よぉなったって勘違いされても困るし」
サラフィエルはハニエルにアタッシュケースを別れると駐車場に向かい歩き出した。