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被害者の年齢を訂正しました。
午前11時20分。警視庁捜査一課3係の刑事たちは現場に臨場した。合田は非番で休み狙撃を目撃した大野に話を聞く。
「どこで狙撃を目撃した」
「目の前です。被害者は僕と西村桜子の100メートル先を歩いていましたから。狙撃直前被害者は普通に歩いていました。携帯電話を構うような仕草もありませんでした」
「スナイパーが狙っていたのは西村桜子の可能性もあるということか。退屈な天使たちのメンバーであるスナイパーは狙撃のタイミングを間違え、誤って被害者を狙撃してしまった。筋が通っているだろう」
木原と神津は被害者の所持品を調べる被害者は鞄を所持しておらず、スーツのズボンのポケットの中に財布とスマートフォンが入っているだけだった。財布身元は財布の中に運転免許証と被害者の名前が記された名刺が入っていたためすぐに分かった。
「被害者は藤原高明さん。37歳。株式会社ライトクローバーに勤務している会社員です」
「ライトクローバーはここから北に10分歩いた先にある会社だ。被害者は会社からどこかに向かおうとした道中に狙撃されたらしいな」
神津が呟くと、木原は被害者が所持していたスマートフォンを調べた。しかしパスワードがかけられているため中身を見ることはできない。
「木原。被害者の藤原高明は珍しい物を所持している」
神津は被害者が所持していた財布から二千円札を取り出す。被害者の所持金は二千円札のみだった。
「その二千円札が珍しいというのは分かりますが、それと今回の狙撃事件には関係があるのですか」
「それはまだ分からない」
午後11時59分。宮本栞は横浜大学で喜田参事官から電話を受けていた。
「なるほど。狙撃事件にラジエルが巻き込まれたということですね」
『そうです。彼女の命を狙った狙撃の可能性もあるが、真偽は不明。退屈な天使たちによる狙撃事件として濡れ衣を着せられることになるから、行動を開始してください』
「了解です。それでそのことをあの2人は知っているのですか」
『先ほどリークした所です。レミエルにはある情報を伝えたから早くても今晩来日するでしょう。今回の狙撃事件に工作員Sが絡んでいる。それを受けて公安が動き出していると伝えたらすぐ来日すると言いました。工作員Sとレミエルはライバルですからね。銃撃戦をやりたいのでしょう。レミエル来日を受けてあなたたちに頼みがあります』
「それは何ですか」
『銃撃戦を阻止しろ。これまでの経験上レミエルと工作員Sが激突したら物凄い銃撃戦が始まる。どちらも本気でやりあうことになるから、銃撃戦に巻き込まれた一般人は流れ弾に当たって死亡する。あの方はその地獄絵図を望んでいない』
「だから彼の動きに注意して動き出せということですね。分かりました。これからあの店に向かいますから、そこで作戦会議をしますね」
宮本栞は電話を切る。今の時間帯は丁度昼休み。行きつけのイタリアンレストランディーノに向かおうと歩き出すと、彼女の背後から一人の少女が声を掛けた。
「しおり。あの店に行くなら私も一緒に行っていい」
「分かりました。一緒に行きますか」
宮本栞に声を掛けた女の名前は式部香子。
膝上まで伸びた黒い髪。身長は宮本栞と同じくらい。紫色のストールを愛用し、どのような時でも手放そうとしない。
宮本栞の大学の後輩で同じ学部で勉強をしている。この式部香子という女は昼休みに姿を消す宮本栞を心配して、尾行を行い、イタリアンレストランディーノで食事をしているという真実を知った、アグレッシブな行動力を持っている変人である。
宮本栞はため息を吐きながら式部香子と共にイタリアンレストランディーノに向かう。