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1月26日土曜日。午前8時。横浜港に一隻の貨物船が停まった。その港でハニエルとサラフィエルは張り込みを続けている。
「本人が来れば仕事終了。運び屋が来たら尋問開始」
「尋問なら任せろや」
「お任せします」
2人が指示の確認をしていると、横浜港に一人の男が現れた。その男はレミエルではなく、運び屋の男だ。
その運び屋の男は緑色のジャージにニット帽を被っている中肉中背の男。
現在貨物船の前には貨物船の船長が立っている。緑色のジャージの男は船長に近づき、彼にアタッシュケースを渡す。
取引を確認した2人は一斉に船長たちの前に姿を現す。
「警察か」
船長は拳銃を取り出す。それでも2人は武器を取り出さず平気な顔をする。
「ちゃうちゃう。退屈な天使たちのサラフィエルや。あんたらの依頼人はレミエルはんやろ。レミエルはんに頼まれて船長はんが彼の愛車を密輸する。そんでそのジャージの兄ちゃんに代理人として取引に応じさせるちゅうわけや」
「ということです。すみませんがレミエルさんの居場所を教えていただけませんか。その車をレミエルさんの所に運ぶのでしょう」
「教えられないな。教えたら報酬が貰えない約束になっているんだ。それにレミエルの移動手段は車じゃない。路線バスだ。それだけ言えば十分だろう」
「分かりました。サラフィエルさん。やってください」
サラフィエルはハニエルの指示の元でジャージの男の腹を蹴る。するとジャージの男の体は動き、海の中に落ちた。
ジャージの男はカナヅチらしく海の中でおぼれている。
「頼む。助けてくれ。報酬がどうしても必要なんだ」
ジャージの男は溺れながら叫ぶ。だがハニエルたちは手を差し出そうとしない。
「レミエルさんの居場所を教えてくだされば助けます。命と報酬。どっちが大切なのかを考えてください。制限時間は1分間。その間に船長さんを拷問します」
船長はこの2人が只者ではないことを悟った。船長はサラフィエルたちに向かい発砲する。だが銃弾はサラフィエルたちに届かない。
「来るな。近づいたら躊躇なくお前らを射殺する」
その一言が聞こえなかったかのようにハニエルは船長に近づく。近づいてくるハニエルに向かいもう一度発砲しようと思ったその時、船長の視界が真っ暗となった。船長はハニエルによる一発の手刀で気絶した。
「安心してください。命だけは助けます」
ハニエルは気絶した船長の耳元で囁くと、溺れているジャージの男の方に顔を向けた。
「答えは決まりましたか」
「分かったよ。行先までは分からないが、レミエルは成田国際空港を経由して来日する。それからの移動手段は路線バス。俺は午後3時群馬県に現れるレミエルに車を渡す予定だった。これでいいだろう。早く助けろ」
「その前にいつ彼は来日するのですか」
「確か午前8時の便だったよ」
「彼の愛用するライフルはどこにありますか。まさかあの車の中に積んである訳ではないでしょう」
「知らない。ライフルは別の奴があの場所に運ぶ予定だ」
「あの場所というのはどこですか」
「横浜プリンセスホテルの駐車場だ。車もそこに運ぶ予定だったからそこが最終目的地だろうぜ」
サラフィエルはその話を聞きスマホを取り出す。そして彼は成田国際空港の運行状況を調べた。
「ハニエルはん。午前8時到着の便は5分遅れてるで。そろそろこの横浜港の上空を、レミエルを乗せた飛行機が通るころや」
その時ハニエルたちがいる横浜港上空を飛行機が通り過ぎた。
「行きましょう」
ハニエルは微笑み、浮き輪をジャージの男に投げる。
「約束通り助けます。その浮き輪に掴まってください」
ハニエルとサラフィエルは浮き輪に掴まり溺死を免れたジャージの男を放置して、成田国際空港へと向かう。
退屈な天使たちが冷酷になった瞬間。




