10
午後5時55分。宮本栞と式部香子の2人はエリザベスマンションに到着した。このマンションの中に江角千穂の自宅がある。エリザベスマンションは26階もある高層マンション。そのマンションの9階に彼女は住んでいる。
2人はエレベーターに乗り込み江角千穂が暮らすI04号室に向かう。宮本栞がエレベーターのボタンを押そうと手を伸ばすと、閉じられたドアが開き、2人の男女が乗り込んだ。
その男女は大野達郎と西村桜子だ。彼らもこのマンションに住んでいる。大野は自分たちが降りる階のボタンを押す。
動き出したエレベーターの中で式部香子は呟く。
「珍しいよね。I04号室って」
「このマンションの管理人は英語が大好きで階ごとにアルファベットを設定したというのが由来です。このマンションの住人は一階のことをA階と呼ぶそうです。エレベーターのボタンにもアルファベットが表示してあるから定着したのかもしれませんね」
宮本栞の言うようにエレベーターのボタンには数字ではなくアルファベットが表示されていた。
エレベーター内にいる大野達郎は宮本栞の顔を見て、彼女に声を掛ける。
「すみません。宮本栞さんですよね。去年の10月に発生したバスジャック事件の渦中にいた」
「そうですが、あなたは神奈川県警の刑事でしょうか。あのバスジャック事件が発生したのは神奈川県でしたよね」
「いいえ。僕は警視庁の刑事です。あなたの名前は捜査で知りました。覚えていますよね。木原と神津のことを」
「はい。覚えています。芸能事務所社員として私と接触した方です」
「それはよかった。僕はあの2人と同じ係に配属されているのですよ。あなたの名前は彼らから聞きました。ところで栞さんはなぜこのマンションにいるのでしょうか」
「友達の家に泊まりに来ただけです」
「そうですか。僕たちはL階ですから、友達はI階に住んでいるということですか」
「そうですね」
宮本栞と大野達郎の会話が続く中で西村桜子は得体のしれない恐怖を覚えた。その恐怖は宮本栞という大学生から発せられている。
西村桜子が身震いしていると宮本栞はそんな彼女に気が付いた。
「大野さん。あなたと一緒にエレベーターに乗り込んだあの女の人はあなたの彼女ですか」
「あなたたちと一緒ですよ。彼女は僕の友達です。今晩は彼女とお泊り会です」
「そうですか」
それを聞き宮本栞は笑顔になった。そして彼女は西村桜子と握手を交わそうとする。
しかしエレベーターが開くチャイム音が鳴り響きドアが開いた。
宮本栞と式部香子は大野たちと別れエレベーターから降りる。
2人を見送った西村桜子は大野に質問する。
「どうして嘘を吐いたのですか」
「誰があなたの命を狙う暗殺者なのかが分からないからですよ。先ほど脅えていたでしょう。あなたを恐怖から守るためには嘘を吐くという選択肢しかありません」
エレベーターはL階に停まった。2人はこれから自分たちが暮らす部屋に向かう。
その頃宮本栞は式部香子と共に江角千穂の部屋に泊まっていた。彼女たちはこれからお泊り会と称して恋愛話をしながら一夜を明かすことになる。
一部間違いが見つかったため、修正しました。




