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暗い森で戦闘開始の合図を

投稿しない割に短いです、ごめんなさい


アンリのこめかみに、血管が浮いた……ような感覚がした。

自身の《幸福刈り(アンチハピネス)》の事を知っているということは、恐らくこの男は奴等の仲間の一人なのだろう。

不気味な笑みを絶やさないこの男は、危険だ。


「それで《龍胆(りんどう)》さんにお願いがあるのですが、後ろのお二人をこちらへ引き渡してくれませんか?」

「あら、随分と都合の良い頭してるのね?ナイフを飛ばしてきた挙げ句爆発っていう過激な挨拶を貰ったら、誰も貴方のお願い聞かないわよ?」

「そうですか……困りましたねぇ、これが私の仕事なんですよ。そのお二人を連れて帰らないと私が怒られるんですよねぇ」


そう男は言って……両手に溢れんばかりのナイフを取り出した。

それを見て息を飲む二人の様子に、口角を更に上げる。


「勘違いしてんじゃねぇよ。あぁは言ったがこれはお願いなんて生温いもんじゃねぇ……命令だ。そいつらをこっちに寄越せ」


そう言ってから、男は青年を見た。


「安心しろ。命と帰り道の保証はしてやる、こっちに来い」

「……帰り道なら結構だ。今この女に帰り道を教えてもらっている最中でな、他の道なんぞ一々覚えてられるか」

「……揃いも揃って、仕方ねぇ……その口を引き裂けば黙るか?」


そう言って男がナイフを構えたと同時に、アンリは溜めていた魔力を解放した。


「《天光(アスティオン)》!!」


術式が展開されると同時に周囲を光が包み込んだ。

男が目を反射的に帽子で覆うと、二人分の足音が遠ざかるのが聞こえてきた。

つい、笑いを溢してしまう。


「お得意の逃げ専用魔術か、良いねぇ……良いじゃねぇか!1分待ってやるよ、精々その間に逃げることだな………《龍胆(りんどう)》……!!」






アンリの後に続いて森の中を走る青年。


「……っおい!テメー変な力が使えるなら、それ使ってアイツ倒せねぇのか!」

「無理ね、倒す前に私の魔力が底尽きるわ。そうなったら私は倒れて、貴方達は強制的にあの男に連行されることになる」

「………魔力だと」


目を細めながら呟く青年の声を聞きつつ、アンリは思考する。

恐らくあの男は《猿夢(えんむ)》……コロナよりナイフの扱いに慣れている、そして戦闘能力も高いと直感で感じた。

棍を持っていれば少しは太刀打ち出来たかもしれないが、残念ながら持っていないし、唯一使えそうだったスコップも先程の爆発で塵に帰ってしまった。


ー……まるで蛇みたいな男

ー………キルトが言っていた"蛇"は、あの男の事かしら

「大丈夫よ。さっきの爆発でこの森の異常に誰かが気付いた筈…救援が来てくれるわ。その前に私が死ななければの話だけれど」

「……」

「少なくとも、馬鹿みたいに真面目で優しい私の妹は来るわ。安心しなさい、性格は私に似てないからちゃんとしてる子よ」


そう言って青年に笑いかけてーーー後方の木が派手に音を立てて揺れた。どうやら鬼ごっこが始まったようだ。

それが分かったのか、青年はアンリを見た。


「……翔識だ、織崎翔識」

「シキザキ・ショウシキ?なんだかシとキが多い名前ねぇ」

「一応言っておくが、俺はテメーを信じる気はねぇ。只単にあの男の事が気に食わんだけだ、町についてある程度の事が分かったら俺はこいつを連れて出て行く」

「あら、貴方はその子の騎士様なのね。素敵じゃない」


未だ目覚めない彼女を見て笑いーーー二人の目の前に男が音無く降りてきた。

すぐに走る足を止め、臨戦態勢に入る。


「いやはや、またお会いしましたねぇ」

「…イヤねぇ、ストーカーはモテないわよ?私トイレ行きたいの、そこを退いてくれるかしら?」

「死ね、って言ったらどうします?」

「その言葉、そのままそっくり貴方に返すわ」


青と金の視線が交差する。

ふと、アンリが一本のナイフを取り出す……先程投げられたナイフを拝借したものだ。


「《(フレイム)》」


魔力がナイフを包み込み、炎を纏った短剣となった。

クリスタに初めて向かったとき、六の馬車の上で戦ったときに使った戦法だ……あの時より魔法の精度は上がっている。


「さぁ、始めましょうか?」

「ガキの遊びに付き合ってる暇は無いんですけど…ま、良いですよ」


そう言って男もナイフを両手に構えた。

翔識に視線で後ろに下がるよう指示し、男と対峙する。


「貴女を切り刻まないと、彼等はこっちに来てくれそうにないみたいですから。遊んであげます」

「ふふっ、お手柔らかに頼むわ」


そう不敵に笑い、ナイフと短剣は同時にぶつかり合った。


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