アンリの天職
イヴァルの“調べる“という言葉に、アンリは目を細めた。
てっきり潜在能力を調べるように、水晶に魔力を注いで決まるものだと思っていたのだ。
「一度しか決められないからね、あみだくじとかじゃ流石に決められないよ………………その方が楽だけど」
「イヴァル、心の声は心の中で呟けよ」
「何のことだい?」
イヴァルの様子に六は溜息を吐いてアンリを見た。
「職は大方自分でも判別できる、けど正確じゃねぇからな、結局はギルドで調べることになる」
「判別できるのね、ならおっさん何で[侍]にしたの?」
「六は面倒だからって無理やり[侍]にしたんだよ、本当、昔から馬鹿だよね」
「………斬るぞお前等」
「アンリちゃんの場合、結構分けられるね」
刀を抜きかかった六を一瞥し、イヴァルは説明を続けた。
それを見て六も諦めた様子で刀を納め、イヴァルの説明を聞く。
「主に潜在能力を見れば大体分かるんだ、アンリちゃんは《幸福刈り》の影響で運がない」
「………面と向かって言わないでくれる?」
「運、つまり神の加護を受けない。必然的に[聖騎士]、[巫女]、[賭博士]にはなれないと考えて良い。後は《植物学者》、これは植物の情報が分かる能力だから[学者]や[弓士]になる可能性がある」
「……何かややこしいわね」
流石のアンリも頭を抱えると、小さく笑ったイヴァル。
そして再び紙を差し出した。
「だから、本人の意思で天職を決める必要がある」
「?何この紙」
「ん?だから、職を調べる紙さ」
Q,目の前に傷付いた女性と襲われそうな子供が、どちらを助ける?
「………街角アンケートで職は決めるものなのね」
「まさか、その裏を見てごらんよ」
イヴァルに言われて紙を裏返して、小さく声を上げた。
先程自身が書いた、ギルド登録の証明書だった。
「その紙は特殊なものを使っていてね、その質問に思ったことを書けば…答えが見つかる」
「じゃあ素直に破りたいって書けば破って良いのね?」
「はははっ、その言葉を聞いたのは六以来かな」
「俺はんな事一言も言ってねぇよ!!」
取り敢えず約30問、アンリは答えてみることにした。
このクリスタのギルドに来てから、常識では考えられないことばかりの連続で、新鮮だった。
ー……この町なら、意外にやっていけるかもしれないわね
「はい、出来たわよ」
「じゃあ最後に、名前の横に判子の代わりに血を一滴垂らしてくれるかい?」
「ナイフで良いかしら?」
「切れ味か良さそうなナイフだね、でもちゃんと針があるよ」
シェルから針を貰ったアンリ。
指に先を刺せば、チクリとした痛みと共に血が流れた。
そして、指を名前の横に押しつけてーーー。
六がギルドカウンターの横の椅子で煙草を吸っていると、足音が近付いてきた。
顔を上げれば、アンリの姿があった。
「おっ、ギルドカード出来たか?」
「えぇ、この通り」
冒険ギルド所属 : アンリ
出身 : オルディア国
職 : [棍術士]
能力 :《回転落とし》
:《活心棍術》
:《柔軟》
:《植物学者》
:《幸福刈り》
「[棍術士]に決まるとはな、意外だ」
「あら似合わない?」
「否、てっきり変化型だと思ってたからよ……変人ばっかり変化型だし」
イヴァルを思い出して、何となくだが納得してしまった。
職も決まり、後は身の回りを気を付ければ……。
「気を付けろよー、その職、人気ねぇから」
「……………は?」
「超肉弾戦だし、棍って今の時代殆ど木製だから戦いの最中に折れたら一巻の終わりだからな」
……危うく、ギルドカードを落とすところだった。