浮気をしたらダイヤの指輪で一万回殴る刑を推薦します
村の奥にある、周りより一際大きな建物の前に着く一行。
「ここに頭領さんが居るの?」
「ラン、さん付けなんかすんな。おっさんとかで十分だから」
「し、師匠と被ってる……おっさん多すぎ……」
「え、六のおっさんがお前の師匠!?何学べんのあいつから!?」
「セス君が理解できないことを教えてくれるのよ」
横からアンリが口を挟む。
う、と呻いたセストを一別して、建物に視線を戻した。
「アス君、さっき女の子大好きみたいな事言ってなかった?」
「否そのまんまだ。人妻にも手を出すときがあるから誰かが見張ってないとすぐ不祥事が起こる……面倒な頭領だ」
「そんな人が何で頭領のままでいるのこの山賊……?」
ランの呟きに苦笑するアストリッド。
その頭領は上は人妻、下は十代半ば辺りに手を出すのだろう。だとしたら相当な数の女性を手当たり次第誘っているのだろうか。
そういったことは、顔が整った者でないと許されない……とアンリは常日頃思っていたりする。
それは決して、「私は綺麗な薬剤師なんだから、その体で新薬試しても良いわよね?」的な事ではない。
そんな事をしたら、間違いなく捕まる。
ーあ、でも…もうしてたわね。
ー……今は関係ないし、良いか。
「何を考えている、さっさと進め」
「あら、ごめんあそばせ」
「気持ち悪い、撃つぞ」
セッカの言葉に我に返り、前を見るアンリ。
見たときには既にセストが扉に手を掛けていたところでーーー
「死ねやぁぁぁあ!!」
「うぉお!?」
開けた瞬間に中から何かが飛んできた。
ぎょっとしたセストが反射的に体を横にして避け……それは予想通り。
「うごぉっ!!?」
「姉さーーーん!!?」
アンリに直撃した。
声を上げる隙もなくそれに激突されたアンリは地面に倒れ込み、その上に飛んできた何かが覆い被さるように倒れる。
扉から怒り心頭の女性が出て行き、一同の視線は自然と二人に向けられた。
黒く後ろに逆立った髪、袖のない裾の切れたコートを羽織っている男だった。右腕が無いらしく、シャツの右袖が縛られている。
と……男が小さく身じろいで、膝立ちしようとした。
「……十二股は、流石に危険だったか……くっ」
「くっ、じゃない」
顔を上げようとした男の頭に、アストリッドの銃口が突きつけられた。
「退け。五秒以内に退かなければ頭を蜂の巣にして熊に喰わせる」
「あぁ?……っと、悪いな嬢さん」
アストリッドの言葉に男は眉をひそめたが、視線を下にして下敷きにしていたアンリの存在に気付き身を引く。
そしてアンリの手を取って立ち上がらせて……何故か笑った。
「これはまた美しい…まるで月の女神。……俺は今夜、空いてま」
シュッ、手の平サイズのスプレーを躊躇無くアンリは男の目に吹きかけた。
「ギャァァァアアアアッッツ!?ちょ、いてぇぇえええ!!」
「アンリお前、今何をかけた!?」
「木酢液、天然農薬よ。安心して死にはしないから」
「それこの間ニンニクと唐辛子の液混ぜて作ってた殺虫剤だよね、作るとき手袋してたよね!?安心できる要素が一切無いよ!!」
「目ェ痛ぇ!!ちょ、水、水!!」
近くの井戸に慌てて駆け寄り、頭から井戸水をぶっかけた男。
濡れた髪を軽く上に撫でつけ、再び一同を見た。
「あー死ぬかと思った……んで、お宅等がクリスタのギルドの?」
「はい。あの……目、大丈夫ですか……えと、頭領さん……?」
「最後疑問系なのが気になったが確かに俺が頭領だ。ひとまず中で茶でもしばきながら話そうぜ」
「アンリ、お前は俺の横に来い」
「えぇ是非」
そう会話しながらさっさと中に入っていったアンリとアストリッド。
それを見て他の三人も歩きだし……ふと、セッカは自分に向けられる視線に気付き、足を止めた。
「さっきから何だ、撃つぞ」
「否……アンタとどっかで会った気がするんだが……覚えてないか?」
「変態に顔を覚えられる趣味はない。強情な奴に無理やり覚えさせるのは好きだが」
「歪んでるな」
中は物も特になく、意外にすっきりと片付いていた。
《獅鋼之爪》の紋章らしき獅子の絵が書かれている旗の前に男が座り、アンリ達を見た。
「俺の名はジークリド・フレイグ。《獅鋼之爪》8代目頭領をしてる。お前等のことはそこの二人から聞いてたぞ」
そう言って顎で示したのは、座らずに柱にもたれているセストとアンリの隣に座るアストリッドだった。
だがそれよりも、ジークリドの言葉に首を傾げるラン。
「8代目……頭領さんが作ったんじゃないんですか?」
「山賊みたいな傭兵団がコンセプトだからな、名前は違えどこの団体は昔からあったらしい」
「コンセプトとかって言う言葉好きなんですか?」
「そんな事より」
ここでやっとアンリが口を開いた。
「あいつ等は一体何者なの?後……何故二人がクリスタから遠く離れたこの土地にいるか。まで聞こうかしら」
二人が行方不明になったのは、クリスタ近くの炭坑だ。
あそこは廃れていた場所なので人など勿論いない。キルトの言葉を信じるにしても、何故、と思うのが人間の性だ。
少しして、考えるようにジークリドは口を開いた。
「あいつ等と俺達《獅鋼之爪》の確執は、今から28年前までに遡ることになる。因みに俺は46歳だ」
「最後の情報はいらないわよ」
「一つ問うが、何でこの国の医学は精度が高いと思う?」
唐突な質問に、え?となるラン。
他の三人は、ジークリドの次の言葉を待っているようだった。
「本なぞ昔は全部手書きだった。誰が今の活版印刷を考えた」
「えっと、遠い異国の人が考えたんですよね。授業で昔、習いました」
「それが事の発端だ」
「……私でさえも今は普通に使っていることに、何の原因がある」
この場の中では最年長のセッカが、理解できないという表情で問う。
28年前、この国が一気に発展したとされる年である。様々な道具を考えたその人は文献の中では“遠い異国の人“としか書かれていなく、また現在消息不明で既に死亡しているという説が一般的に浸透している。
「原因なんて無い、逆に感動したんだ。その知識と技術にな」
「それが世界を滅ぼすのに通じるの?意味分からないわ」
「!?世界!?」
ユーグレナの話を聞いているはずもないランが隣で仰々しく声を上げる、無理もないが。
「何だ知ってたのか、勧誘されるだけあるな」
「……何でそれを」
「あいつ等に対して俺らは数でしか対抗できないんでね。無駄に情報収集力が高いと自負はしてる……話を戻すか」
一つ咳払いをしてそう言い、ジークリドは言った。
「例の“遠い異国の人“は、この世界の人間じゃねぇんだよ」
「……‥…‥は?」
「あいつ等はこの世界を滅ぼして、遠い異国の国に行こうとしてる」
つまり、と言葉を区切った。
「この世界で生まれたことを心から呪う奴等が集まって、この世界を完膚無きまでに破壊するのを目的とした……行き過ぎた異郷土愛の軍勢だ」
遠い異国の人の話を投稿しようかと思っています
勿論、ネタバレしない程度で同時進行しようかと
詳しくは次回の投稿で。




