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人間違いすると数日後に羞恥心はやってくる

ランが動いたのは、認識後約0.3秒位だった気がする。


「っ部屋間違えてませんかぁぁあ!?」

「ガッ!?」


反射的に部屋を閉じようとして、押し開いていた扉の角に男が盛大にぶつかった。まさにミラクル、神が舞い降りてきた。

ナイフを離して床に伏す男を、動揺しながら見つめる。


「あ……否あの、わざとじゃないんです。すみません、怪我したら姉さんに慰謝料請求して………って、気絶してる……」


男は完全に伸びていた、少し安心した。

顔をこれで都合良く忘れてくれれば逃げられる、こっちも被害者だ。


ー………………。

ーイヤイヤイヤ、慰謝料請求の心配じゃなくて!


そこでランは我に返り、ベッドの近くまで滑っていたナイフをシーツを手袋のようにして掴む。

よくよく見れば、ランの二の腕位の大きさがあるサバイバルナイフだ。動作からして一般人だった男が持つものではない。だがこの男が元傭兵とは考えられない、こんな狭い場所で戦うにしても不意打ちで扉はないだろう……警戒せずに開けた自分が言えることではないが。


ーせめて狙撃とか、持ってても葉巻用ナイフでしょ。 

ー……ん、あれ?

「…姉さん、ヤバい姉さん!あの人のことだし何か巻き込まれてるって!」


確かに丁度別の場所でアンリは気絶させられたが、それを知る由もないランは妹の勘で姉の危機を察した。

慌てて部屋の鍵を店主に預けて外に出る。がここで問題が発生した。

道が、分からない。


「しまった……研究所ってどこ……!?」

「この先をずっと行った先の、学院の隣だよ」

「そっか、ありがとうキルトさぁん!!?」


そこでランは、物凄い勢いで隣を見た。

白いシャツを軽く羽織り、これまたミスマッチなニット帽を目深に被った耳の長い獣人が、平然と隣に立っていた。


「やぁ、えーっと……何年ぶりになるだろう、1年ぶり位かな?」

「7年です……じゃなくて!!何でここに!?」

「ミライちゃんとここで約束してるからね」


そう言えば、ミライはここでキルトと遊ぶとか言っていた気がする。正確にはアンリが脅して言わせた、だが。

つまり偶然ここを通りかかった所に自分が飛び出してきたのだろう。


ー………否

ーキルトさんの事だし、敢えて此処にいたりして…。

「アンリさんは元気かい?」

「否多分今元気じゃないかと!キルトさん、ミライ達が何時来るかとか分かります!?」

「後30分位かな、占いにはそう出てるけど」


………キルトを一歩離れて見る。

鞄は持っていない、手ぶら、占い師が持ってそうな水晶玉は見当たらない。

ランの考えが読めたのか、キルトは笑った。


「僕の目は千里眼なんだよ。正確に言えば水晶玉の結晶が眼球の水晶体代わりになってるんだ」

「に、人間技じゃない……あっキルトさん獣人か」

「いまいちすっきりしない納得の仕方だなぁ………それで、アンリさんに何かあったのかい?」


キルトの言葉に、ランは自分で言っておきつつも首を傾げた。

何となく、それこそ信用度も低いし証拠もないがーーー


「えと…勘ですけど……多分、他の皆の力が必要な気がするんです。そうだキルトさん、今すぐ呼んで下さい。魔法とかで」

「時空転移系統の魔法は使えないから無理かな」




 †  †  †




「だーかーら、殲滅しちゃ駄目だってばぁ!《獅鋼之爪レグルス》は使える人間いっぱいなんだから、僕ちんかケッちゃんの為に数人残してよぅ!」

《んな事言れても困るッス!あっち一斉に襲ってくるッス!邪魔者排除があちしと《駃騠けってい》しゃんの仕事ッス! 》


そんな煩い言い合いが聞こえて、アンリは小さく体を震わせて目を開いた。

狭い石で出来た部屋に行るようだ。窓は二つあるらしいが、どうにも数式やデータが紙に書かれてそこら中に散らばっていて窓が隠れている。

そしてーーーはっとして体を起こした。


「うにゅ?あっ《龍胆りんどう》ちん起きた!じゃあ山ちん、殲滅しないでね!絶対だよ!」

《はいにゃら~》

「……………」


何かを切る動作をして、アンリを見てくる。

白いフードを着た薄い黄緑色の髪の少女だ、椅子に座ってクルクルと回っている。


ー……喧嘩売ってるのかしらあの子……。


幸い棍はすぐ近くに立て掛けられていた。アンリは少女から目を離さずに素早く棍へと手を伸ばしてーーー火花。


「っつ!?」

「ムリだよ~僕ちん特製の逆結界方陣!言わば君は、檻の中にいるからさ!」


確かにアンリが座っている床には、黒で魔法陣が描かれていた。

アンリの体を中心として半径約30cm、何とも狭い檻だ。

それを聞き、アンリは恨めしそうに少女を見た。


「誰かと勘違いしてるんじゃない?少なくとも私の名前は《龍胆りんどう》じゃないわ」

「うんにゃ、僕ちんの狙いは間違いなくアンリちんだよ」


その言葉に、更に目を見開いた。

幾ら強烈な性格の仲間に囲まれているとは言え、この少女に会ったことは一度もない。会っていたら絶対に忘れられない見た目だ。


「あっそうだ!仲間なんだからじこしょーかいしないとね!僕ちんはユーグレナ・フェルフェス!」

「は?仲間?」


これはセリアの時のように自分が忘れているパターンだろうか。

そこで、ふと気付いた。


「セリちゃんは何処」

「ん?………あぁーあの騎士様かぁ、うんとね、忘れた」

「………忘れたですって」

「うん、もうあの子は要らない。いっぱい情報持ってきてくれたしね!多分植物園にいるんじゃないかな~………本題に入ろ?」


唖然とするアンリを見ながらユーグレナは言った。



「ね、神様になった気分でこの世界一緒にぶち壊そうよ!」

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