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暫く会わないと友達の名前さえも忘れる

ここで一つ、彼女…セリア・デュトロンについて語ってみよう。

彼女は由緒正しき子爵家の令嬢で、特に武道の方面で才能を開花させた将来有望の第二部隊副団長である。

なので彼女と元騎士団長の娘であるアンリの出会いは、必然と言っても過言ではない。

出会いは、首都の中央に位置する王立メルリーン学院内にある、無駄に広い中庭だった。


「ずっと座っているようですが、どうなさいましたか?気分が悪いのなら、医務室までお連れいたします」

「10人目」

「え?」


まだ8歳だったセリアは、そうに言った同い年らしき少女を見た。

真っ直ぐな銀髪は紺色の制服により一層輝き、その場にいるのがおかしいと思わせるような風貌をしている。そんな少女が何故か木の枝を持ち土に棒線を引いていた。


「一時限目から二時限目に移り変わるこの15分の間に、しゃがみ込んでいる私に話しかけた人の数よ」

「それが……一体?」

「この学院の生徒数はおよそ190人、教師数は約25人、その他諸々の人が約40人……合計は?」

「えっ………255人ですが……」

「その255人中10人が、体調を崩した可能性のある私に話しかけてきた……逆に言えば、残り245人は丸無視ね」


木の枝を折り、投げ捨てて彼女はセリアを見る。


「245人は他人を思いやる余裕、つまり協調性が無いと見た…… やっぱり学院ってつまんないわね、明日から家に閉じ籠もろうかしら……」

「良かった」

「は?」


つい、セリアの口からそんな言葉が漏れた。

そんなセリアを不思議そうに少女は見てくる。


「体調が悪いのかと思いましたが、それなら大丈夫ですね。安心いたしました」

「……変な人……と言うか、堅苦しい敬語使うのね」

「一番話しやすいのです。私はセリア・デュトロン、貴女の名前は?」

「本当に変な人ね………アンリ・ヴェストルドよ」


この日以降、引き籠もりに近い状態となったアンリが学院に単位のために来る際には、セリアと共に行動することが多くなったのだ。

この交流は、アンリが首都を去るまで続いた。




そんな思い出話を交えた説明をランにすると、混乱が収まったのか納得したような表情になっていた。


「つまり、姉さんの学友って事?」

「違います。アンリ様とは主従の契りを結びました」

「私は結んだ気が全くないのだけれど」


セリアの言葉に横から口を挟んで、ふと疑問に思った。

何故セリアが、しかも第二部隊副団長がこのような廃屋じみた場所に来ているのだろうか。

アンリの疑問に気付いたのか、セリアはアンリへと体を向けて口を開いた。


「通報があったのです。不審人物二人組がこの建物へ入っていったと……それで私が志願して来たのです」

「ふ、不審人物……」

「まぁ、私達もうこの家の住人じゃないものねぇ。確かに通報されることを念頭に置いておくべきだったわ」

「否普通誰も考えないから!!」


姉妹のやり取りにセリアは口元を手で押さえて静かに笑い、そして再び言った。


「通報した住人には私から話しておきます。所でアンリ様は何故この様な所に?」

「花祭りの新品種登録協議会に出るためよ。騎士団に詳しい資料とか来てるんじゃないかしら」

「そうなのですか!?不覚です……是非、拝見させていただきます。任務を早々に切り上げて!」

「いやいやセリアさん!任務大事だから!!」

「アンリ様と比べれば………」

「姉さんもう行こうか!!セリアさんも忙しいだろうし!!」


これ以上はセリアが暴走……既にしているが、収拾がつかなくなるのを危惧してか、ランはわざと大きな声でそう言った。

それに頷き、セリアを見る。


「また会えて嬉しかったわ。また数日後に会いましょう」

「是非、楽しみにしています。……あの、アンリ様」


セリアに呼ばれ、扉へと向かっていた足を止めるアンリ。


「……ここに来たという事は、何かあったのですか?」

「んー?別になんにも?」

「そう、ですか……引き止めてしまって申し訳ございませんでした」


セリアはわざわざ一礼し、それを見て二人は外に出た。

たった数分だが、中は随分と空気が淀んでいた影響からか外の空気が清々しく感じた。


「………姉さん、なんか楽しそう」

「そうかもねぇ、あの子変な子だけど一緒にいて飽きないから」

「……セリアさんに同情する」


そんな二人の背中を見送りつつ、セリアは息を吐いた。

たった15年でアンリは変わってしまったらしい。嬉しくもあるが少し残念だった。


ー……何か、あったのですね……。

ー力になりたい……でも、私に何が出来るのでしょうか。

「……いけません。アンリ様のご意志を尊重しなければ……」

「ボクちんはちゃーんと聞いた方が良いと思うな~」

「!」


はっとして背後を振り返り、目を見開く。

白地の法衣を着た…フードで顔は見えないが少女と、その少女を肩に乗せている長髪の男が、音無く気配を感じさせず、そこにいた。

腰の剣に手を添えるセリアを見て、フードの少女は笑った。


「人なんて環境ですぐ変わっちゃうんだからさ~君なんてどーせいつか忘れられちゃうよ~」

「!貴様達か、アンリ様達より先にこの家に忍び込んでいたのは!」


恐らく二階で身を潜めていたのだ。

だが、二階の窓から逃げることも出来たはずだ。何故逃げずに今ここにいるのだろうか。


「ボクちん達が何で逃げなかったとかって考えてるー?」

「っ………」

「それはねぇ……君が、とても使えそうだったからだよ」


少女が手を前に出すと、法衣の袖の裾から青い石がはめ込まれた木製のペンデュラムが出てくるのが、セリアの目に映った。


「騎士ちゃん、色々と便利だからさぁ……ボクちんに従え、セリア・デュトロン」


………剣から手を離すセリア。

それを見て、少女は笑った。


「何させよっかな~騎士ちゃんに不祥事起こさせるのも面白いかもー!さってと、針ちん行こっか!」

「へいへい……人使いが荒いな本当に………」

「うふふー、もうすぐ会えるよ~《龍胆りんどう》ちん……」


近くの木の葉が落ちる頃には、少女と男と、セリアの姿は消えていた。

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