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見た目は違うが生き方は同じ

メルリーンに行くまでは徒歩四日、馬車で一日半の道のりだ。

それもふまえアンリはランを連れ、先に首都へ六の馬車に乗って向かっていた。


「おっさんとランとで馬車に乗るなんて、15年前以来かしら」

「15年前……って言うと、私が産まれて姉さんがクリスタに向かった日?」

「あーな、あん時のこいつは怖かったわ」


手綱は握ったまま、六が首だけを後ろの荷台へと向けつつ言う。


「“乗せろ~!“って、俺の馬車に挽かれても不思議じゃない止め方でよぉ」

「今思うとおっさんにはあれで十分よね」

「こいつは乗せちゃいかんかった、挽いとけば良かった」


双方の意見は、ランを挟んで見事に食い違っている。

だが、アンリにしてみればこういった会話も懐かしいものだ。昔はセストやアストリッドと六の馬車に乗り、他愛もない話をよくした。

馬車の揺れる動きに併せてアンリが静かに過去を振り返っていると、ランが口を開いた。


「そう言えば姉さん。新品種って、森の中の畑で姉さんが育ててた花?」

「えぇ、もう花は鉢に植えて一足先にメルリーンにいるけれど」

「私はよく分からないんだけど、あの花の何が凄いの?」


あの花、と言うランは意外にも植物への関心が皆無である。

アンリの影響である程度は詳しいようだが、アンリの知識と比べると完全に劣っている。

なのでアンリは珍しく、心底丁寧に詳しく教えることにした。


「花には色々な姿形があるでしょう?大輪とか草丈……茎の長さのことだけれど、それが高いとか低いとか」

「うん、それは聞いた覚えがある」

「植物は栽培のしやすさ、病気への抵抗性、品質とかを重点に置かれて新しい品種が作られるのよ。私は《植物学者プラントスコロジー》持ちだから簡単に花の一つ一つの特性が分かるけど」

「特性って、さっき言ってた抵抗性とかの事だよね」


妹の言葉に頷き、そのまま続ける。


「私が使ったのは交雑育種って言って、親がお互いに持っている長所を一つにする方法よ。遠い国で生まれた方法で今じゃ一般的な新品種を作る方法ね」

「つまり、足は速いけど胴短の馬と、遅いけど胴長の馬を交配させて、足の速い胴長の馬を産ませるって事?」

「ま、例としては適切ね」


生物学的には微妙な例えだが、一度聞いてそこまで理解出来ているのだからそこは目を瞑る。

余談だが、アンリは足の遅い馬には人参を目の前にぶら下げ、食いつこうとするのを利用して速く走らせるという方法が一番手っ取り早いと考える人間である。


「私の新品種ちゃんは草丈が長い大輪のリズロン色の車型花冠が一つの茎に3~4つ、時期的には初秋から晩秋にかけて咲くわ」

「……く、車?馬車の車輪の形なの?」

「ナスの花の形よ、因みに花冠って言うのは花びらが集まった花の器官」


この品種については11年前に森で偶然見つけた物をウイルスフリー化、つまり雑菌が混入していない状態にしようと思った事がきっかけだ。

目立つ見た目だというのに深い森にしか咲いてないことを疑問に思い、よくよく調べると日陰にしか咲かない花だったのだ。

それを日向でよく育つ花と交雑し、一番良い花を更に殖やすために数年かけて育てたのが、一足先に向かったアンリ作の花だ。


「…………ラン、理解出来たか」

「師匠が理解出来ないのに私が理解出来ると?もう車輪の所でお手上げ、降参状態です………」

「失礼ね……私がおかしいみたいに……」


変人とおかしいと言う言葉は違うと思う。

ふと、遠くに見える山々へと太陽が傾きつつあることに気付いた。


「もうすぐ夕暮れねぇ、まきでも集めましょ」

「だな、働け若人。俺は馬を見てるから」

「ちょ、師匠。労働は平等だと思います」


メルリーンまで、残り一日の距離での話である。

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