農作業の次の日は全身筋肉痛
袖を捲り、鍬を手にする六。
そして木の柵に足を格好良く足をかけた。
「ラン、天気占術士の占いはどうだ?」
「師匠、いきなりそんな事言われても困ります。後柵壊れます」
「雰囲気だよこんなのは。そんで答えは?」
「ここ一帯は災害も何も発生しないと聞きました」
そう言うランもコートを脱ぎ、ロープや袋を持っていた。
この光景を知らない人間が見たら確実に疑問に思うだろう、実際に後ろで見学しようかと思っていた神月は表に出さないが、戸惑っていた。
「今年はラチェの実とブルージュ畑を作るぞ!」
「はい!」
ラチェの実は小さな赤い実が纏まって成る果実の一つで、砂糖漬けや果実酒を作る際に用いられる物だ。市場流通価格800ギル。
ブルージュは紫色のこれまた小さな果実で、味は苦いのだが調味料と併せると仄かに甘みを出す物だ。市場流通価格730ギル。
戸惑っている様子の神月を見て、アンリはニヤニヤと笑った。
「てっきり剣術かと思ったでしょう?」
「……………あぁ」
「修行が農作業だなんて、普通は誰も思わないわよねぇ」
今四人がいるのは蒼姫の牧場内の農場だ。その牧場主の蒼姫は仕事で店の方にいる。
休耕田を耕し、新たに種を播くのが今回の修行にあたる。
「………お前はやらないのか?」
「前にやったら折れた鎌の刃が顔スレスレに飛んできたのよ。それからは禁止令が出されちゃったわ」
「賢明な判断だな」
「農作業は全身の筋肉を程良く使うから、基礎体力を鍛えるにはもってこいなのですって。これはおっさんの言葉なんだけれど」
ランが生き生きしてするのはこの行為が修行になり、人のためにもなるからである。
だが一番の理由は、その際に播いた野菜や果実がタダで貰えるからというものだ。
ー……あの子、タダって言葉に弱いのよねぇ。
ー………どうしてこうなっちゃったのかしら。
アンリが頬に手を添えてそんな事を思っていると、農作業……もとい修行が始まった。
慣れたペースで畑を返し土を鍬で掘り、間隔を作っていく。
その手順を見て、神月は何故か着物の袖を捲った。
「………え、まさかやるつもりなの?ちょ、キャラ考えなさいって!笑えるから!ぶはっ、あはははははは!!」
「………既に笑っているだろう」
「あー……笑える、否笑ってる場合かしら。この場合私も空気呼んで混ざらないとダメ?」
アンリの言葉を丸無視し、神月は柵を飛び越えて二人の元へと歩み寄った。
「あれ、神月もする?」
「貸せ」
「?鍬を?」
肯定。
首を傾げつつランは鍬を神月に渡す。
質感を確かめるように暫く鍬に触っている神月を見て、六はランを見た。
「あれ、お前の男か?」
「私の男?何ですかそれ」
「あぁダメよおっさん」
話が聞こえたのか、アンリが柵に手を突きながら話に混ざる。
「この子ったら、色恋沙汰とは無縁の生活送ってるもの。言っても無駄無駄、その点についてはもう討論もしたわ」
「……女は行動がやけに早いな」
「褒め言葉よね?ありが」
アンリの顔面に、土が思い切り命中した。
倒れるアンリを見てはっとし、少し忘れかけていた神月を見て、六は目を細めた。
敵を斬るように、神月が高速で畑の土を耕していた。
その姿はまるで鬼神……さしずめ人間耕作機だろう。
神月はとても楽しそうな表情だった。
「………くくくっ、あははははははははははは!!」
と言うか、笑いながら耕していた。
顔にこびり付いた土を手で払いつつ、アンリは起き上がってそんな神月を見る。
「…………かーくん、実は職[侍]じゃないんじゃないの?蒼姫ちゃんと同じ人種でしょうアレは」
「あんなに楽しそうな神月初めて………」
「何か、清々しいな」
神月の農耕モード………アンリ命名………は、それから数分後に強制的に止められたのだった。




