真面目な奴程奇想天外な行動に出る
チェリナに襲われ早一時間。
神月のやる気が完璧に削がれてしまい依頼は断念。二人を連れて悠々亭に来ていた。
「アンリお前、仕事どうしたんだよ」
「今日は定休日よ」
「姉さんその言葉一昨日も言ってたよね!?」
「良いじゃない別に。おば様紅茶お願い!」
「あ、俺ブラック!神月はどーするよ」
「………茶」
それぞれが別々の物を頼む。
昼間にビールは出さないのが悠々亭の隠れたポリシーだ、なので酔っぱらい客が出なく周囲の店からも評判が良い。
因みに大人四人はビールは飲める、ランはいつもコーヒーだ。
「可愛げないわよねぇいつも思うけれど……」
「紅茶なんて甘い成分の液体じゃんか…寧ろ飲める姉さんに驚く」
「はいはぁーい!ご注文の鯖煮込み丼!」
「おい誰だよ勝手に頼んだの!?俺の財布欠金ギリギリなのに!」
「俺だ」
「お前かい!!」
神月が鯖煮込み丼を咀嚼する中、ナルがブラックコーヒーを飲んで口を開いた。
「ラン、お前まだあいつ等のこと捜してるのか?」
「勿論。ダメって言われてる訳じゃないし、イヴァルさんだって止めてないでしょ?」
ランが単独で依頼をする場合、大体はクリスタから離れた遠い街だ。
大きい街は人が集まり、情報も集まる。各地に散らばる商人や他の街のギルドの人間、酒場の主人……。
そういった人間に聞き込み、数少ない情報を集めようとしているのだ。
「私としては、何で皆捜さないの?って感じだけど……」
「いやぁ……キルトが“何時か会える“って言ってんだし、あいつ等その内ひょっこり帰ってくるだろ」
「キルト?」
「獣人の[占術士]。占いが凄く当たるみたいよ?」
今頃はどこにいるのか分からないが、時々ミライに絵手紙を送っているようで無事なのは確かだ。
……何故ミライに送るのか、ここについては前に討論した。
「あいつの占い当たるよな。知ってたか?あいつがここに帰ってくると占ってほしい奴が詰め寄ってくるんだぞ」
「前に手伝ったけど、怖かったなぁ……主婦のバーゲンセールみたいに人が正面から迫って一気に…………ぅっ、思い出したら…」
「チェリナーーーッ!!」
茶番劇には、お茶を飲んで無言で返した。
だがそこまでキルトが信頼されているとは思わなかったのか、ランが口を開く。
「……いっそのことキルトがギルドマスターをすればいいのに」
それは誰もが思い、誰もが通る道だった。
イヴァルもキルトを信頼している節があるし、温厚で人当たり良さそうなキルトならば務まるであろう。
だがキルトには大きな欠点があったのだ。
「ラン、何回キルトさんに会ったか覚えてる?」
「えーっと、私が四歳の頃と師匠に弟子入りしたときだから……二回だけかな?あの人ずっと旅に出てるし」
ランが六に弟子入りしたのは8歳の頃だ。
最後に会ったのが今から7年前なので普通なら顔を忘れてもいいはずだが、変な所でアンリに似て記憶力が良かった。
「あの人ね、文字読めないのよ」
「…………………………はい?」
「否だから、文字書けないし計算も実は出来ないのよ。意外でしょ?」
ラン、固まる。
そう言えば、と思い返せばキルトに会った二回、文字を書いているところをランは目撃していなかったのだ。
アンリがその事実知ったのは例の事件の時、イヴァルに言われてアンリが始末書を書いていた時だった。
キルトが入ってきて始末書を見て、一言。
“ははっ、やっぱり全然読めない“
“………キルトさん、馬鹿?“
「あの人昔から修行ばっかでよ、全然勉強してないんだと!」
「昔、何時までも帰ってこないのは文字読めないから迷ってるんじゃないか~って話、一杯したよね!」
「……意外すぎる……私の中じゃ、凄い人だったのに……」
「私みたいな?」
「刺すよ」
意外な話に花を咲かせていると……店の扉が開いた。
入ってきたのは、刀を手に持ち、スーツで決めたサングラスの男で………ランが大きく音を立てて立ち上がった。
「師匠!?」
「お、やっぱし此処だったか。お前等好きだよなぁこの店」
サングラスを外して、ニカッと男、百地六は笑った。
「あらまぁおっさんじゃない、急に帰ってきたわね」
「仕事がローツェルブであってよ、お前等が暴れたって聞いたもんで顔見せに来たんだよ………へぇ、噂の切腹侍ってお前か?」
六の視線が神月に向けられる。
当の神月は、ゆっくりと緑茶を飲んで六を見た。
「同じ[侍]がいて嬉しいぞ。宜しく後輩!」
「…………………」
「…………黙りか?まぁ良いけどよ………」
「師匠!稽古出来ればお願いします!」
ランが剣を握ってそう言うと、苦笑しながら六はランの頭をポンポンと軽く叩く。
「悪いがそんな暇あるのか?」
「?」
「お前等三人、イヴァルが呼んでたぜ」




