一波乱の次は二波乱とは言わない
次の日、刀を持って神月は一階に降りて食堂に座っていた。
そして店の扉が開き、自然とそちらに目を向けて……停止。
「あら、おはようかーくん」
「……?」
何事もないかのように神月と向かい合う席に座るアンリ。
「おば様、私サンドウィッチでお願い!かーくんは?」
「……鯖、でなくて何でお前がここにいるんだ。昨日帰っただろう」
「実はラン、今日の朝急に仕事入ったの。私料理作れないからその場合、何時もここでご飯食べてるのよね」
「は~い、サンドウィッチの中味はレタスとトマトと玉子ねぇ」
アリスが持ってきてくれたサンドウィッチを頬張る。
咀嚼しながら続けた。
「ごめんなさいね、今日約束してたんでしょう?」
「……その依頼、誰が頼んだんだ?」
「コウ君」
神月の脳内に、高笑いをしているコウキの姿が過ぎった。服装は全身黒で、内側が赤いマントを付けている悪役ルックスだ。
……わざとらしい咳をして、その脳内イメージを隅に置いておく。
「と言うわけで、一緒に行かない?」
「俺が話を聞いてない前提でワザとそんな事を言っているのか」
「あら残念バレちゃった……今日、私と依頼行かない?」
アンリの言葉に神月は目を細めた。
依頼は最低二人で行くとギルドの掟で決まっているらしい。だとすれば、アンリにはパーティーを組んでいる人間がいると思っていたのだ。
「私、今独り身なの」
「……例の二人か」
アンリは微笑むだけで、答えない。
「後一人いるのだけれど、どう?」
「依頼内容は」
「簡単、国境付近で魔物が見かけるようになったからそれの討伐」
「了解した」
「お待たせ~鯖定食よ~」
今度は神月の前に鯖の定食が置かれる。
それを見て、アンリはアリスを見た。
「……おば様、こんな物あったの?」
「こんな物じゃない、鯖だ」
「ふふっ、実はあったのよ~最近作ったの!」
ーーー同時刻、クリスタから離れた森林にて
魔物に剣を振り下ろし、ランの動きが止まった。
そんな様子にサラとコウキは首を傾げる。
「……どうした」
「やっぱり、神月さんのことが気がかり?」
「……何か嫌なことが起こる気がする」
「「?」」
† † †
「かーくん、仲間でランの師匠の妹さん、蒼姫ちゃんよ」
神月の体は、硬直していた。
あの後アンリとギルドに向かい、もう一人と会っていた。
そこにいたのは、黒髪黒目、肩に毛先が付いた鍬を持つ女性。
どこを見ているか分からない女性は、見るからに極東の人間だった。
「蒼姫ちゃん、昨日入ったかーくん」
「……………ん、宜しく………?」
「何で疑問系なの?」
軽いやり取りさえも耳に入ってこなかった。
まさか自分の事を知ってアンリはこの女と会わせたのだろうか、どれほど心がねじ曲がっているのだ。
「………噂で聞いた、極東の人、来るって」
「………チェリちゃん?」
「ん………イヴァルさんに切腹迫った勇者………」
完璧に話が拗れまくっていた。
だが、アンリは笑って神月を見る。
「さ、行きましょうか?」
「っ………」
自然と、腰の刀に手が置かれていた。




